【女性芸人座談会】立川こはる、春風亭ぴっかり☆、林家つる子、一龍斎貞鏡



――なるほど。では、女性だから、女流だからよかったっていうことってありますか。

つる子:出演者で、他が男の方ばかりなので、印象が強く残る…というところですかね?マイナスでもあるかもしれませんが、それが時にプラスになるというか…初見の人で、女の人が出るなんて珍しいと何となく気になって、見に来てくださったという方も、実際にいたりしました。

こはる:それは、落語会のチラシを見てて思いますね。チラシって、落語を知らない人も見る最初の出会いじゃないですか。落語家を知っている人は、「おっ、誰々師匠だ」ってなりますけど、落語を知らない人がチラシ見ると、「え?誰このおっさん」ってなる(笑)。でも、女流の写真が入ってると、ちょっとは違うかと。

――ちなみに、女性だから大変だったっていう話はいっぱいあるんですか。

貞鏡:うーん。楽屋にいると若手は、師匠方、目上の方に気を使わせないように、こそこそってやるんですけど、どうしても楽屋で着替えようとすると、師匠方が(席を)外してくださるんです。「もう一室あるから着替えなよ」って言ってもらっちゃうこともあったりで師匠方、先輩方に気を使わせちゃったっていうことが、すごく申し訳ないなっていうのはありますね。…なんか、いい子ぶっちゃってますけど。

こはる:いやいや、皆、経験してるんで。

つる子:わかります、わかります。

こはる:女流だからと先輩方に気を使わせないために、一層、自分が気を使わなくちゃならない。

貞鏡:そうなんですよ。だから、最初から(着物を)着てっちゃったり。

こはる:例えば、女性だと物理的に、先輩方とか師匠方のお鞄を持つのが重たかったりするじゃないですか。鞄を持った時に、周りが「うわー女の子が重い荷物持って」って。こっちは仕事なのに、周りが気を使ったせいで、師匠がお前に荷物を持たせるのが嫌だとか、そういう風に気を使われるのが嫌だっていうのはあります。

貞鏡:前座の頃、仙台のホームで先生のお鞄を持って隣に立ってたんですね。その時たまたま暑かったので、ノースリーブで白いパンツでヒール履いて。後になって、愛人に見えたと言われました。(笑)

(全員爆笑)

つる子:確かに、師匠と歩いていて、なんかそういうことはありますよね。うちは師匠の家が、鶯谷なんで(笑)。夜遅い時間に歩いていると、事情を知らない人には何だ!?って思われかねないというか…男だったらそんなこと思わないでしょうけど。

貞鏡:化粧とかってないですか。激しい噺をやってて、マスカラ落ちちゃったり、髪の毛が乱れちゃったり、ほうれい線にファンデーションが溜まったり。(笑)それを気にしちゃうのがすごい嫌なんです。男の人だったら、坊主で汗もだらだら流して、それがまたよかったりもするけど、女の人は芸者さんもここで(胸の高い位置を帯で)ぐっと締めて汗かかないようにするっていうじゃないですか。女性が汗かいてもいいと思うんですけれども、崩れちゃうのを気にするのが私はやだ。

こはる:落語協会の人って、前座の時って、ファンデーションだめだったんだっけ。着物をたたむときに、他の方にファンデーションがついちゃうといけないっていう。

――だめっていうルールになってるんですか。

ぴっかり☆:それは女流の先輩から、そういう失敗があってって、こっそり伝わってきましたね。下着とか、着るものにも注意するようにとか。

こはる:客の時に寄席で見ていて、とある女流の前座さんが、高座がえしの時にパンツの線が化繊の着物の上から見えて、お客さんがざわざわざわって。

ぴっかり☆:そういうことへの気の使い方は先輩方から教わります。

貞鏡:げ。

ぴっかり☆:厳しかったですね。

――こはるさんは、落語協会からなんとなく伝わってくることを、全部自分で気を使ってやられてきた?

こはる:立川流は他に女はいなかったので、ある意味、自分のシミュレーションで入るしかないですよね。それでいったら、まず寄席の修行を私はしていないので……。師匠の付き人で例えば「朝日名人会」だったりとか、そういった他の前座さんがいる環境で見て、楽屋の振る舞いとか、そういうのは修正しましたね。でも、多分、甘やかされたと思いますよ。ひとり目って、きっと、なんだかんだいって、みんな優しかったと思います。セクハラもなかったし。

――恵まれていたと。

こはる:どうなんですかね。ただ、ちょっと『寄席芸人伝』とか昔の漫画とかで、芸人がお囃子のお師匠さんにちょっとおしり触るとか、そういうのがあるって読んでたんで、そういうのがあるのかなーって思ってたら、私がこんなせいだと思うんですけど、すごく優しくしてもらえて。逆に男性の若い先輩方が、一緒に飲みに連れてってくれて、「この噺、女としたらどう思うの?」とか参考にしてくれたというか、そういった芸の話は男性と女性だからできたのかなって思いますね。

――男性の後輩に対してっていうのは、どういう意識で接するものなんですか。男性の後輩に接する際に、やっぱりそれも女性の後輩とは違う意識で接するものなんですか。

つる子:あんまり強く言えないですねぇ。やっぱり男社会に入れてもらっているっていう意識がどこかにあるのか。後輩でも、男の子の方が、なんか優位というか、そんな意識がどこかにあって、あんまり強気に出られないという部分があるかもしれない。女の子の後輩になら教えられることがあるなーと思うんですけどね。その意識はとっぱらったほうがいいのかもしれないですけど。

こはる:後輩たちは言わないけれども、「そりゃ気働きとか、ヨイショのセンスとか女の方ができるに決まってんじゃん、だけど、芸は絶対俺の方が上だ」、っていつかははむかわれるんじゃないか、っていう、恐怖心というか。

つる子:そうですねぇ。うんうん。

――今言われた、「男性社会に入らせてもらっている」という意識は、みなさんありますか


こはる:実は、いなくていいジャンルではないかっていう不安はありますね。でも、自分で決めた人生なんで、できる限りはしゃいでみよう、それだけで居続けている感じはあります。

ぴっかり☆:男性の後輩とか先輩とかが合コンの話をしていて、私もふんふんて聞いてて、「行こうよ行こうよ、ぴっかり☆お前もな」って言われて、「待って、私、女なんだけど」っていうことがあったんです。全員が私を“女”って見てなかったんですよ。女としては、えっ?て感じなんですけど、なんか嬉しいような、そういう感じもあるんで、あんまり気にしたことが無くって。やっぱり私たちは女ということで卑屈に思っちゃう部分もあるんですけど、意外と仲間はそういう風に思ってないんだなぁって。それが分かって、すごく嬉しかったのを覚えてます。

――象徴的な話ですね。

ぴっかり☆:びっくりしちゃった。おいおいって(笑)。同期とかそういうレベルでは、男女の壁が無くなってきてるのなかって気が多少はします。

こはる:だってぴっかり☆は私のこと、普通に「兄(あに)さん」って呼びますからね。

(全員爆笑)

ぴっかり☆:男女の壁がなくなってきているのは、この5年くらいですね。

貞鏡:そうなんですね。

こはる:仲良くないとさ、喧嘩できないじゃない。他人行儀な人とは喧嘩しないもんね。

貞鏡:そうですね。芸人の兄さんとかと、講談はどうだとかって話をしていると、だんだん、「おめぇに何がわかるー!」って喧嘩になっちゃうんですけど(笑)。

ぴっかり☆:喧嘩っぱやい。

貞鏡:私は今でも全然気働きが出来ないんですけど、前座の4年間とか最悪でホント使えなくて。だから、私も後輩にガッツリ言えない。でも、意を決してちょっときつく言うと、男の子の方が辞めちゃうんですよね。で、貞鏡がいじめたって都市伝説が出来る(笑)

つる子:あーーー。

こはる:根性って、下手したら女流の方があるから、うちらの中の当たり前が男性にとって違うみたいなのはある。

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