女流座談会ということで、立川こはる、春風亭ぴっかり☆、林家つる子、一龍斎貞鏡という今まさに注目を集めている4人が揃うという貴重な機会を得た。
そこでは、女流特有の悩みや葛藤が語られはしたが、決してそれらは苦悩に満ちたものではなく、非常にドライで、誤解を恐れずに言うととても愉快に語られ、共に笑いあう光景が見られた。まさに、ここに女流としての強さとしなやかさを感じることとなった。
女流芸人もパイオニアの世代から、人数が増えつつある若手中心の新たな時代に突入し、それぞれ様々な個性で道を切り開ける世界となりつつある。4者4様のばらばらな個性を感じつつも、女流という同じ境遇を生きる姿やその言葉は男性が共感しうるものも多く、実に発見の多い座談会となった。
その先にあるものを見据えつつ、今という地点をしっかりと踏みしめている4人は、自然体でありながらも、本当に力強かったということを一言添えておきたい。
取材&文章:加藤孝朗
写真:湯村和哉
デザイン:林香余
協力:加藤尚美
――まず、自己紹介をお願いいたします。
立川こはるです。(以下、こはる)
2006年入門で、今年でちょうど10年という節目の年を迎えております。二ツ目になって4年で、自分が入門した10年前と、女流が増えているこの今の時代は、自分の売り出し方も変わってきているので、どういう落語をやりたいのかをきちんと考えていくことが真打への次なるスタートになるのでは、という大事な時期でございます。女流です(笑) よろしくお願いします。
春風亭ぴっかり☆です。(以下、ぴっかり☆)
私も入門は2006年です。こはる姉さんのちょっと下で、つる子ちゃんの4年くらい先輩ですね。よろしくお願いします。
林家つる子です。(以下、つる子)
2010年9月に師匠のもとに弟子入りして、2015年11月に二ツ目に昇進しました。まだまだお姉さん方の後ろ姿を追ってがんばろうというところです。よろしくお願いします。
講談師の一龍斎貞鏡と申します。(以下、貞鏡)
2008年1月に入門しまして、2012年2月に二ツ目に昇進させていただきました。講談自体あまりご存じない方も多いですが、講談には恋バナ、怖バナ、エロバナなど面白い読み物が膨大にあるので、私自身がよく理解をして講談の魅力をお伝えできるように勉強中です。よろしくお願いします。
――今、こはるさんが言われていました、“女流の環境が変わってきている”というところをまず話したいのですが、入門された頃というのはどうだったのですか
こはる:まだ女流がそんなに多くなかったというか、立川流には女流がいなかったですし。自分が客で寄席に行っていたときは、(柳亭)こみち姉さんくらいですかねぇ。あまり寄席で女流の先輩方をお見かけすることもまだまだ少なかったです。で、「女流は落語に向かないよ」だとか、「こんな女性があまりいない世界でどうするんだ」とか、「男性が一番の社会だよ」というのを、前座の間は徹底的に言われたんですよ。ですけど、自分が二ツ目になったくらいのここ数年で、今までは男性だったら、新作派とか、古典派とか、若手とか、いろんなジャンルの見せ方があるのに、女流はみんな、“女流”という1ジャンルだったのが、ここまで人数が増えてキャラクターが増えると、女流の中の新作派だったり、女流の中のアイドルタイプだったり、女流の中の本寸法だったりという風に、ちゃんとニッチが成立し始めてきた。簡単に言えば女流が増えている、ということで、ただ単に男性に対抗してやっていくだけじゃない視点が必要だな、というのがここ数年感じていることです。
――なるほど。
こはる:特に、その時はまだ談志が生きていて、談志が女性の落語家を認めていなかったので。談志は、自分が女だということを、入門して一年間気づいてなかったんですよ。
つる子:ホントなんですね、それ!?
こはる:そう。最初にばれてたら、続かなかったかもしれない。一年後にばれて、でも、楽屋仕事やってるから、まぁしょうがない頑張れっていう感じで。その後お会いしたときは、たまに忘れている時があったりはしましたが。
つる子:へーーー!
――(女性が)増えたっていうことは、純粋にうれしいこと?
こはる:うれしいですね!あと、例えばつる子さんは学生の時に、前座の私の勉強会に来てくれてたり、前座の(春風亭)一花ちゃんに会った時に、「入門する前に姉さんのこと見てました」って言われて、ちょっと、告白されたーみたいな(笑)。でも、背中見られてるんだっていう恐怖心はありますけど。今までは入ることすらためらわれる世界だったのが、今は自由に入って、自分の個性で売れればいいんだよっていう空気が強くなったのはいいことだと。
――つる子さんからすると。
つる子:本当に開拓者というか。立川流では特に、こはる姉さんが女流の道を切り開かれたと思いますし。
こはる:いやいや、学生でお会いして以来ですから、今日。7、8年くらいですよ、つる子さんとお会いするのは(笑)。
つる子:そうなんですよ!!当時、同じく落語好きだった親友と一緒に聴きに行っていて。
こはる:入門するかもしれませんって、帰り際に言われて。絶対入んない方がいいよって。
つる子:(大爆笑)
こはる:らくごカフェですよね。前座勉強会をやってたんですけど、その時に話をしていて。その後に、博多・天神落語まつりで正蔵師匠にお会いしたときに、(私が)談春の弟子で女の子でっていうのをご存じだったので、正蔵師匠が、「うちにも女の子が二人はいったから、面倒見てやってね、分かんないことあったら、こはるみたいなのがなんか言ってくれた方がいいんじゃない」って、すごいお言葉をいただいて。
つる子:は、はい、はい。
こはる:正蔵師匠もお弟子さんのことを気にかけているというのがすごく伝わって。
つる子:まさかこんなところで、師匠の話が聞けるとは(笑)。はぁーーー。ありがとうございます。
――つる子さんからすると、ご自身が入門するということを考える上でも、テストケースというと言葉が悪いですが、もうそういう道を切り開いている存在がいたということですよね。
つる子:そうですね。入っていい世界になったんだなっていうことは、みなさんが活躍している姿を見て思いました。落語ってどうしても男の方中心に作られているし、難しいのはもちろん、素人の頃もそう言われてましたし、そういうものだと今でも私も思うんですけど。でも、こうやって活躍されてる姉さん方の姿を見て、道が切り開かれたんだなっていう意識で、私はいます。
――多分、こはるさんとかぴっかり☆さんが入門される時よりも、飛びこむための覚悟っていうのは、少しは軽減されていたのかもしれないですね。
つる子:多分、お二方に比べたら、絶対そうだと思います。
――逆に女性で活躍されている方がいっぱいいるところに入ったっていう貞鏡さんはいかがですか?講談は、(女性の)割合は半分くらいですよね。
貞鏡:過半数に達しています。
――その中で女流っていう意識は?
貞鏡:大体、講談の世界に入門すると、修羅場っていうものから教わるんですね。ですが、女性が修羅場を読むと、どうしても大きな声を出して、なるべく息継ぎをしないで発声するので、声がつぶれちゃったり、今まで通りの声が出なくなっちゃったりするんです。なので、やんなくっていいとお考えの先生もいらっしゃいます。その中で、私は最初の1年間、『山崎の合戦』という修羅場だけを教えられて、その次は『三方ヶ原軍記』、次は『徳川四戦記の戦い』の修羅場を教えて頂いて。師匠からは、修羅場だけをやっていればいいんだよってことをずっと4年間前座の頃は言われてました。
――女性が多くいる環境ではあるけれど、今、こはるさんが言われたような、男の社会の中に飛びこむ覚悟は必要でしたか?
貞鏡:それこそ講談は、つるちゃんから見たこはる姉さんとかぴっかり☆姉さんのような開拓者が元からいらっしゃるので、そこまで勇気が必要だったというわけではないです。甘かったのかもしれないですけどね(笑)。
つる子:逆に女性が多いから、男性と比較とかではなく最初から芸のみを見てもらえるというか…逆にそこの厳しさがあるというか…。
貞鏡:そうですね。
――落語だとどうしても男性が多いから、男性とどう戦うのか、という意識があるんですかね。
こはる:講談はナレーションというか、第三者の読み方をされるじゃないですか。失礼な言い方ですけれども、講談はいわゆる朗読という視点なんですが、落語は主人公の一人称の台詞ばっかりで会話で続くっていう形式だと思うんです。「俺は」っていう台詞なのに、女の人がやると、お客さんは「私は」っていう風にとってしまうじゃないですか。そこがちょっとややこしいんですけど。
貞鏡:うんうん
こはる:一人称で、例えば「俺はなかいってくるよ」って男性の方が言えば普通ですけど、女の人が「なかいってくるよ」って言ったら、「私がなかいってくるよ」って台詞に受けとられた場合に、いやいやお前ちょっと待てよと、なるわけで。そういう構成、元々の作りの時点で、ちょっと違いがあるなと。だからこそ、男性で成り立ってきた、女性には不利、っていう点があると思うんですよ。
――芸の成り立ちとして。
こはる:そうですね。会話で、一人称で進むっていうものを女性が再現した時に、古典落語の場合はどう映るのかっていうのが、かなりのネックになると思っていて。ぴっかり☆さんは、地噺をよくやりますが、地噺っていうのは客観視点で話すシーンが増えるので、そこまで違和感を与えないっていう、ね。
ぴっかり☆:地噺と講談って共通点が多いですよね。演者が違うだけで。噺家がやれば落語になりますし、講談師がやれば講談になるのかもしれませんね。
こはる:お客さんと一体化して違和感なく空間を構成できるっていうのが、私は難しいと思っていたんですけど、それが普通にできるような女流が増えれば、もっと受け入れらるんじゃないかなって。すごい抽象論ですけど。