【スペシャルインタビュー】立川吉笑「立川流であるということが唯一のアイデンティティ。」


師匠に言われたのは、「オレはお前のやってるネタとかわからない」と。「何が面白いのか正直わからない」と。「ただ、それでお客さんが入ってたりとかウケたりとかしているんだから面白いんだろうな。だからやりたいようにやりな」と。

――吉笑さんは、立川流のなかでの立ち振る舞いと、落語界の中での自ら引き受けている立場っていう2つの立場をうまく両立しようとしています。そこに心を砕くのは、自分のやるべきことに邁進するためにはバランスをとることが重要ってことですよね。そこは無視して自らの道を行くんだってことになっちゃったら落語家である意味がなくなっちゃうということなんですよね。そこで暴走せずにブレーキを踏んでいる最大の理由は、「こう見えて結構落語好きなんですよ」っていう先ほどの発言でしょうか?

うんうん、今は絶対そうですね。落語は絶対裏切れない。

――好きだし助けてもらったし育ててもらった。

もちろん、自分は落語家だから食べていけてるわけですから。

――お笑い芸人でも、作家ではなく。

落語家って看板のお陰でやれているから、それは感謝しなくちゃいけない。バチあたりますよ。

――ブログとかでダメだったらいつでも辞める覚悟はあるとよく書かれていました。その意識は変わらず?

最近は、もうだめじゃなさそうだなって思ってきてるんですけど(笑)。談笑は、早く二ツ目にしてやるから試して無理だったらやめろという教え方なんです。他にも必ず才能を活かせる仕事があるはずだからって。この先ドカンと売れる気はしないし、特にやりたい落語像も特にないけどなんとか食えてるからっていうだけで落語家を続けることをすごく嫌がっていて。それはやってる本人にとって不幸だし、そんな奴の落語を聴かされているお客さんにとっても不幸だし、そもそも落語にとっても失礼だからと。そういう教え方を最初にしてもらったんです。

だからその分他の一門に比べたら前座修行もやさしいし、早く二ツ目に昇進させてもらっていますが、上野広小路亭でやって20人とかしか呼べない状況が毎月続くようなら、それは辞めなくちゃいけない。無理して続けたらそれは失礼。自分としてはその段階はようやく越えつつあるかなと。ここまで色々とピックアップしてもらってるということは何かしらニーズはあるんだから、そこに向けて邁進すべきなんだなと思いが変わりつつあります。

――自信が持てたということでしょうかね。

とりあえず居場所があるというか、今までなかったことをやれているなっという実感はあります。

――僕は立川流の中では談笑師匠が大好きなんです。僕にとっては革命に近かった。そういうところから吉笑さんみたいなポップカルチャー、ユースカルチャーを体現されてる方が出てくるんですね。今、一門の雰囲気いいじゃないですか。これは落語界を見渡してみても、このワクワクする感じは他になかなかない。そこから吉笑さんみたいな方が出るってのは僕にとって意味が大きい。今、この2015年に落語を聞く意味みたいなものを見出せるような気がするんですよね、吉笑さんを含めた談笑一門を観ることに対して。それに近いような自覚はございます?

やっぱり、たまたま僕と笑二がいたのがでかいと思います。自分で言うのは痛々しいですけど、ふたりとも得意技というか、自分にしか使えない武器を少しは持てている気がします。そんな二人が連続して入門できたのはありがたい偶然です。後輩の笑二が入ってきたのは僕の入門のたった半年後ですから。

――ドラマがありますよね、談笑一門は。吉笑さんがトントンと二ツ目になって、半年違いの笑二さんが前座は最低3年半という新しくできた規定の壁に阻まれたりとか。

笑二なんて若いですからね。もう可能性がめちゃくちゃあるから、きらめいていますよ(笑)。

――可能性があるということを自ら表現しているし、それが伝わってきます。

前座の時から目立って行けって談笑に言われています。ツイッターとかブログとかで、お客さんに見てもらえるように土俵作りをしておかなきゃいけない。二ツ目に昇進してやりたいことやってダメだったら辞めさせられるんだから、前座のうちに短いとはいえ下準備をしておけって言われて。とにかく可能性を見せるしかない。当然として実力はないんだから、自分を応援してください、応援してもらった暁にはこういう世界をお見せしますと。マニフェストじゃないですけど。そんなことを提示するしかないんだから、とにかくちゃんとアピールしろよって言われてきました。

――才能なかったら辞めさせられるんですか?お前もうだめなんじゃないかという宣告とか。

そうそう談笑だったら言うだろうし、もっと言ったら自分で判断してほしいと言われてる。もう、一人辞めさせられてますし。それは名前が付いてすぐでしたけど。談笑も少しずつ考え方が変わってきているのか、昔みたいにすぐに辞めろとはならないかもしれないですけど。

――ここまでこられているってことは、今の時点では師匠に認められてるってことになります。それは自信になってる?

もちろんそうですね。でも、師匠がどうこうというのは、あまり意識していません。師匠もやってることが違うから。言われたのは、「オレはお前のやってるネタとかわからない時がある」と。「何が面白いのか正直わからない時がある」と。「ただ、それでお客さんが入ってたりとかウケたりとかしているんだから面白いんだろうな。だからやりたいようにやりな」と。

――恵まれてますね。

本当にありがたいですね。見守ってくださって。でも明らかに、ちゃんとケツ持ってくれてるんですよ、絶対に。こっちがもし相当なしくじりしても、談笑が盾になってくれるんですよ。それは絶対にそうなんです。そこには安心感しかない。

――落語界っていうものをそこに感じますね。落語の伝統というか、システムに守られてる。

実際に二ツ目昇進のタイミングでいろいろ揉めましたけど、そこで師匠が前線に立ってちゃんと守ってくれた。昇進は無理かなって諦めても、「決めたからいくぞ」って。笑二も同じように守ってもらったし。談笑って、やっぱ強そうだし、頭もいいし、優しいし。すごいですよ、ほんとに。

――頼りになりますね(笑)。

頼りになります。以前、独演会の直前にちょっとした病気になって中止にしようと思った時があったんです。きつかったから。でも踏ん切りがつかなくて、師匠に相談したら、「休め休め、そんな死ぬほど頑張る仕事でもないから。ちゃんとお客さんに事情を説明したらいいし、治ったらまたやったらいいだけのことだから」って言ってくれたんですよ。それだけですごく落ち着いたし、あの時は救われましたね。

――インタビューの前半では「自分という商品でどう切り込むか」という話でしたが、今は、「落語が培ってきたものやシステムにどれだけ育まれてきたか」という話に戻ってきました。吉笑さんのアイデンティティがどこにあるかを知りたかったのですが、落語に対する思いを聞いて、安心感を得ました。なにか吉笑さんの存在がストンと落ちた気がします。

たまたま去年のスローガンは「こんにちはカルチャー、よろしく伝統芸能」って言っていたんですが、今日の話もそれに尽きるというかね。最近ありがたいことにカルチャー系の仕事をよくいただいていて、でもやっぱり伝統芸能って肩書きがつく部分は絶対に放したらダメだと思う。そこに助けられてるんだし。

――その2つのバランスをとることは難しいことですよね。観る方としても、例えば人を誘って観に行く際に、どちらかに偏っているものは誘いにくかったりするんですよね。

分かります。その点は、談笑一門会とかはいいんですよね。古典も何もかもが全部揃ってるし。本当に楽しいし。

――吉笑さんは理系ですよね。数学的ロジカルな側面を比較的全面に出しているし、そういう存在と見られていると思います。その一方で、吉笑さんの手法には日本文学の伝統にのっとった手法にも思えますし、影響も強く感じます。一番の好例は安部公房なんですが。

安部公房、好きですねぇ。安部公房さんも理系ですよね。シンセサイザー作ってる映像を見たことがあります。

――例えばお笑いで言うと小林賢太郎さんのような新しい手法と捉えられている人がいます。でも同時に、小林賢太郎さんは、お笑いの歴史をきちっと踏まえて、参照しているようにも感じます。吉笑さんの落語も同じで、斬新に見えながらも、落語史を踏まえながらもそこに足りないものを補った新たな作品をやられている気がします。落語の歴史の流れの中で自分の居るべきポジションなどは意識されているのでしょうか?それとも単純に、今の方向性しかできないということなんでしょうか?

そんな難しいことを考えて作ってはないですけど、ひとつは好きなんでしょうね、今のスタイルが。不条理なのは好きだから。日常生活の中の感情の機微を描くというよりは、ありえない状況があってそこでどうなるかを描く方が好きだから。それが結果的に何か新しい流れにのっかてると見えるのかもしれません。ただ、好きっていうのに尽きますし、自分の武器だとも自覚してますけど、どうしてもそれしか作れないんです。それが作りやすいから、また次の噺もそうなっちゃうのがそろそろ嫌になってきてはいますが、さすがに。

「またこの手の話か、一緒だね」って思われるのは恥ずかしい。だから、もっとなにか違う切り口がそろそろ見つけて次に行きたいし、変えたいですね。ただ、ルールを作って動かすのが一番好きなんです。今までなかったルールを作りたいから、それは絶対に辞めない。

お客さんはいろいろみたいですよ。今のような論理でがーっと行く方向性でいろんな種類を見せてくれという要望もあるし。もちろん、そうやりたい願望もあるけど。さすがになんか、ちょっとルーティーンっていうか作り方も決まってくるし、だいたいこうやったら何か出そうだなっていうのもわかるし。今の作り方に頼りすぎてる感じはあります。

――それは、噺家としてどういう存在になりたいかという問いにつながりますね。お客さんが見たいというものに応え続けるのか、そうでなく次のフェーズにいくのか。次のフェーズにいくなら、今までのお客さんをある程度裏切っていく必要もあります。

自分の中では、裏切られてもそれでも好きでいられる存在として、ZAZEN BOYSとくるりがいます。彼らはアルバムごとに見事に変わっていくじゃないですか。でも「変わっていくこと」自体が常に変わらないから、それには憧れはありますね。自分もそうありたいなと思いますよ。予定調和が嫌いなんで、お客さんに期待され出したらすぐ次に行きたくなっちゃう。

――そろそろ、今言われたような「次に行く」ことを期待されている感じがしますか。

もう、ビンビンにしてる。極端に言ったら、これからは談笑一門会で古典やろうかなってぐらい(笑)。一気に古典に移ろうかなとか。まあ、古典は準備するのがしんどいからいつもどおりやりますけど。本当はここら辺で一気に変えたほうが自分はワクワクするなとは思ってます。

――これから先、新たな活動が沢山予定されていますが、高座上では次のフェーズに向かう吉笑さんが見られるかもしれないですね。

今年はそのきっかけにしたいと思っています。で、来年に向けて一気に変わっていくんだろうと思いますけど。

――「見られるかもしれない」ではなく、「新しい姿をお見せします」と。

そうですね。そうしないと無理だと思います。このままだと確実に行き詰まるな(笑)。

――本当に長い時間、ありがとうございました。

もうだいぶ喋ったなぁ。そういう時期なんですかね。なんかもう、正直になっちゃった(笑)。入門前の活動とかは、今まであまり言わなかったことですからね。でも、去年くらいから昔やってきたことが全部つながってきて、なんかとても楽しみですよ。


公演情報

立川吉笑ゼンコクツアー2015『くず屋よ、難しく考えるな。』


プレビュー公演

立川吉笑ゼンコクツアー2015 『くず屋よ、難しく考えるな。』<プレビュー公演>
日時: 9月1日(火) 18時45分開場、19時15分開演
場所: 高円寺・庚申文化会館2F http://www.koshin-bunka.com
料金: 1500円(前売・当日とも)
出演: 立川吉笑
内容: 井戸の茶碗、ほか
予約:WEBフォーム  メール tatekawakisshou@gmail.com

東京公演

立川吉笑ゼンコクツアー2015 『くず屋よ、難しく考えるな。』<東京公演>
日時: 9月8日(火) 9月9日(水) 19時00分開場、19時30分開演 (2日間とも、同一演目です)
場所: 原宿・ヒミツキチオブスクラップ http://realdgame.jp/ajito/harajuku/
料金: 予約2500円、当日3000円
出演: 立川吉笑
プログラム 落語:『井戸の茶碗』ほか 企画:WEB大喜利結果発表
予約: WEBフォーム  メール tatekawakisshou@gmail.com

大阪公演

立川吉笑ゼンコクツアー2015 『くず屋よ、難しく考えるな。』 <大阪公演>
日時: 9月17日(木) 19時00分開場、19時30分開演、21時15分終演予定
場所: 大阪市福島・パインブルックリン http://pinebrooklyn.com
料金: 予約2500円、当日3000円
出演: 立川吉笑
プログラム 落語:『井戸の茶碗』ほか 企画:WEB大喜利結果発表
予約: WEBフォーム  メール tatekawakisshou@gmail.com

京都公演

立川吉笑ゼンコクツアー2015 『くず屋よ、難しく考えるな。』<京都公演>
日時: 9月19日(土) 14時30分開場、15時00分開演、16時45分終演予定
場所: 京都・恵文社一乗寺店COTTAGE http://www.cottage-keibunsha.com
料金: 予約2000円、当日2500円
出演: 立川吉笑
プログラム 落語:『井戸の茶碗』ほか 企画:WEB大喜利結果発表
予約:WEBフォーム  メール tatekawakisshou@gmail.com

熊本公演

立川吉笑ゼンコクツアー2015 『くず屋よ、難しく考えるな。』 <熊本公演>
日時: 9月22日(火・祝) 18時00分開場、18時30分開演、20時15分終演予定
場所: 熊本・早川倉庫 http://hayakawasouko.com
料金: 予約2000円、当日2300円
出演: 立川吉笑
プログラム 落語:『井戸の茶碗』ほか 企画:WEB大喜利結果発表
予約:WEBフォーム  メール tatekawakisshou@gmail.com

福岡公演

立川吉笑ゼンコクツアー2015 『くず屋よ、難しく考えるな。』 <福岡公演>
日時: 9月24日(木) 19時00分開場、19時30分開演、21時15分終演予定
場所: 福岡・FUCA BASE http://fuca.asia
料金: 予約2000円、当日2500円
出演: 立川吉笑
プログラム 落語:『井戸の茶碗』ほか 企画:WEB大喜利結果発表
予約:WEBフォーム  メール tatekawakisshou@gmail.com

石川公演

立川吉笑ゼンコクツアー2015 『くず屋よ、難しく考えるな。』<石川公演>
日時: 10月17日(土) 15時30分開場、16時00分開演、18時00分終演予定
場所: 粟津・粟津演芸場 http://awazutheater.com
料金: 予約2300円、当日2500円
出演: 立川吉笑 [ゲスト] 立川笑二
プログラム 落語:『井戸の茶碗』ほか
予約:WEBフォーム  メール tatekawakisshou@gmail.com

福井公演

立川吉笑ゼンコクツアー2015 『くず屋よ、難しく考えるな。』 <福井公演>
日時:10月18日(日) 18時30分開場、19時00分開演、21時00分終演予定
場所:福井県あわら市・伝統演芸館 http://www.mapion.co.jp/phonebook/M13022/18208/ZL0001641183/
料金: 1500円(前売・当日とも)
出演: 立川吉笑 [ゲスト] 立川笑二
プログラム: 落語:『井戸の茶碗』ほか
予約:WEBフォーム  メール tatekawakisshou@gmail.com

 

詳細は、立川吉笑オフィシャルサイトでご確認ください。


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