柳家小三治が7月23日、有楽町朝日ホールでCD BOX発売記念イベントの「令和三年 柳家小三治の会」を行った。
7月21日にソニーミュージックダイレクトの来福レーベルから発売したCD20組のBOXボックス「昭和・平成 小三治ばなし」は、1980年から90年にかけて収録された全23演目を収録したもので、すべてが初めてリリースされるものという貴重な音源集といえる。
有楽町朝日ホールは約600人のファンが駆けつける大盛況で、まずは小三治の弟子で現在とても高い人気を誇る柳家三三が登場。「しの字嫌い」を口演し会場を温めた。
満を持して小三治が登場し、いつもながらの脱線を繰り返すフリーフォームなまくらを展開。まくらで十分に引き付けたところで「錦の袈裟」に入り、予定時間を大幅に超える熱演で健在ぶりをアピールした。
中入り後は、CD BOXセットの制作プロデューサーである京須偕充氏との対談が組まれており、どちらかというとこの対談がこの日のメインイベントといってもいいだろう。三遊亭円生の有名なレコードである「円生百席」や古今亭志ん朝の作品群を世に送り出してきた京須氏との対談は、2019年10月に同会場で行われたCD発売イベントでも組まれ好評を博したもので、今回はその続編ともいえるものだったが、前回とは小三治のモードが大きく異なっている印象を受けた。前回も病気を克服してすぐのタイミングと状況も似ていたが、前回はとにかく前向きで「楽しい」という言葉を頻発するようなモードだったが、今回は発言がやや問答のようなむつかしいものが多く、「もしかしたら、今日の高座でおしまいかなと毎回思っている」という発言も聞かれたのが印象的だった。
対談では、自分の師匠である小さんを差し置いて「円生こそが名人である」と言い放ち、兄弟子にひどく怒られた思い出話などを披露。特に、円生と志ん朝を引き合いに出して多くを語り、「円生、志ん朝にはスター性があるが自分にはない。2人のレコードを聴き比べて、最後はケツまくって『オレはオレだ』と思うようになった。そこに気が付くまでが大変だった。」などと熱く語った。
対談の司会を務めた柳家三之助は、この対談の自分の役割を「猛獣使い」と表現したが、その表現がぴったりくるほど自由に発言する2人の話は、2人の出会いから、録音嫌いの小三治をどうやって説得したのかという話や、録音当時の苦労話など、とても興味深い話が飛び出して会場は大いに盛り上がった。
特に、京須氏が初めて小三治に会ったときにダンキンドーナツを差し入れに持って行ったというエピソードを受けて、対談の最後には小三治から京須氏にクリスピークリームドーナツをプレゼントしなおすという一幕もあり、81歳にしていまだにチャーミングさを失わない小三治の一面が垣間見られたシーンは特に盛り上がった。
対談が終了した後は、会場にそのままプレスの人間を残しての囲み取材に移った。この囲み取材でも京須氏はそのまま登壇し、一緒に記者からの質問を受けた。
様々な質問が出たが、小三治は「本当にわかりません。自分が何歳になればどうなるのか、それはわからない。もうオレは無理なんじゃないかと思うことはありませんでしたけど、今までのやり方やあり方が小三治の中で正しい道だとすれば、もうそれもだいぶ疑わしい。」と今の自分を訝しがる。
ただそれは単に訝しがるだけでなく、「じゃあ、疑わしいのに何でできるのかと言えば、今やれることはこれしかない。これしかないというのはもうやせ細って、もうこれしか残ってないということじゃなくて、今自分が持っている考えや人間性や世の中の動きに対する自分の反応が全部なくなってしまったなんてことはない。逆に言えばどんどんまた出てくる。これから何を考えてやりだすか、私にもわかりません」と前向きな姿勢を見せた。
また「もしかしてこれでおしまいかなと思うことは、このところ、いつも思っています。今日の高座で今日の舞台でおしまいかなということはこのところいつも思っています。怖かった、それが。伝統に縛られることなく、先輩たちの素晴らしい仕事におどおどすることなく、またやれるようになったのは、だめならだめで今の自分の考え方を突き詰めれば新しい自分の在り方がどっかに出てくるんじゃないかという希望、よしやってやるぜという気持ちが出てきたんです。だから楽しい」と、さらなる前進への意欲ともとれる発言も聞くことができた。
約40分間の囲み取材の中で小三治は質問に真正面から答えることはほとんどなかったが、煙に巻くとか、質問を否定するとかではなく、その時その時に思いつく言葉でまくらを語るように自由に語り続けたのがとても印象的だった。
81歳になっても小三治は、日々変化し続けているように思える。少なくとも2年前の囲み取材時とは別人のような印象を受けた。
このままどこまで歩みを進めるのか、その先を見てみたいと強く思わせる公演と取材だった。
<商品概要>
「昭和・平成 小三治ばなし」
・発売日:2021年7月21日
・品 番:MHCL-2911~30
・価 格:38,500円(税込)
ご購入はこちら
SONY MUSIC SHOP
●完全生産限定盤
●全23口演(すべて今回が初CD化の音源)収録
●三方背BOX(約255mm×約285mm×約50mm)入り
●特製デジパック(CD8枚組×2+CD4枚組×1)
●56ページ大判フォトブックレット
(制作プロデューサー・京須偕充による演目解説+書き下ろし原稿収載)
商品の詳細は、「開封の儀」にて動画で公開されている。
<柳家小三治「昭和・平成 小三治ばなし」特設サイト>
https://www.110107.com/kosanji_SH/
<先着購入特典>
「昭和・平成 小三治ばなし」特製湯呑
※特典は先着でのお渡しになります。無くなり次第終了となりますのでご了承ください。
<収録演目>
01:「千両みかん」
第7回独演会(鈴本演芸場)/1987年8月31日
02:「馬の田楽」
第26回独演会(鈴本演芸場)/1992年5月31日
03:「がまの油~一眼国」
第13回独演会(鈴本演芸場)/1988年10月31日
04:「二人旅~長者番付」
第17回独演会(鈴本演芸場)/1989年8月31日
05:「お直し」
第27回独演会(鈴本演芸場)/1992年10月31日
06:「宿屋の富」
第5回独演会(鈴本演芸場)/1987年3月31日
07:「お化け長屋」
第17回独演会(鈴本演芸場)/1989年8月31日
08:「明烏」
第22回独演会(鈴本演芸場)/1991年1月31日
09:「千早ふる」
第25回独演会(鈴本演芸場)/1992年1月31日
:「たちきり」
第19回独演会(鈴本演芸場)/1990年1月31日
10:「五人廻し」
第6回独演会(鈴本演芸場)/1987年5月31日
11:「山崎屋」
第14回独演会(鈴本演芸場)/1989年1月31日
12:「禁酒番屋」
第23回独演会(鈴本演芸場)/1991年5月31日
13:「品川心中」
第30回独演会(鈴本演芸場)/1994年1月31日
14:「花見の仇討」
第10回独演会(鈴本演芸場)/1988年3月31日
15:「鰻の幇間」
第23回独演会(鈴本演芸場)/1991年5月31日
16:「青菜」
第7回独演会(鈴本演芸場)/1987年8月31日
:「やかんなめ」
第22回独演会(鈴本演芸場)/1991年3月31日
17:「野晒し」
第8回独演会(鈴本演芸場)/1987年10月31日
:「お茶汲み」
第4回独演会(鈴本演芸場)/1987年1月31日
18:「粗忽長屋」
第14回独演会(鈴本演芸場)/1989年1月31日
19:「道灌~あとまくら」
本多寄席 柳家小三治独演会(本多劇場)/1985年4月16日
20:「二番煎じ」
本多寄席 柳家小三治独演会(本多劇場)/1985年4月16日
■十代目柳家小三治(やなぎや こさんじ) プロフィール
1939年(昭和14年)12月17日生まれ 東京都新宿区出身
1959年(昭和34年)五代目柳家小さんに入門 前座名小たけ
1963年(昭和38年)二つ目昇進・さん治に
1969年(昭和44年)抜擢で真打昇進 10代目柳家小三治襲名
2005年(平成17年)紫綬褒章受章
2010年(平成22年)落語協会会長就任
2014年(平成26年)
5月:旭日小綬章受章
6月:落語協会会長職を勇退、同協会顧問に就任
7月:重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定
出囃子:二上がりかっこ
紋:変わり羽団扇