【ディスクレビュー】「なんばグランド花月 笑福亭仁鶴 独演会」DVD4枚＆CD4枚BOX発売！
東京にいて東京の落語を聴いていると、なぜが上方落語に疎くなる。
その逆も然り。
同じ落語であるのに、まるで別ジャンルの様に。
米朝師や、故・枝雀師は別格としても、それ以外の大物も関西以外では必然的に生で触れる機会が相対的に少ないためか、近しいものに感じられないのが事実。
六人の会の「東西研鑽会」等の動きなどもあり、鶴瓶師や、文珍師、南光師、三枝改め文枝師などに触れる機会も増え、近年特に関西を離れ関東を拠点にする雀々師の様な人達や、若手も続々と東京に出てきて、やっと上方落語に気軽に親しみを感じられるようになりました。
そんな状況下で、まだ見ぬ強豪とは言わずとも、生の高座になかなか触れることのできない噺家さんがいることも確か。
その代表格が、1984年から続くNHKの法律相談番組『バラエティー生活笑百科』の司会としてもお馴染で、よしもとの顔、いや、関西の顔の一人として君臨する、笑福亭仁鶴師。
ここで紹介するのは、大阪の笑いの殿堂「なんばグランド花月（通称：NGK）」で、満をじして開催された独演会から選りすぐった8席を収録した貴重な記録で、入門50周年を迎えた仁鶴師の偉大な足跡に触れられるという素晴らしいDVD&CDのBOXセット。
全国を飛び回っているという仕事柄、繁昌亭はもとより、繁昌亭設立前から上方落語にかなりの頻度で生で接してきた僕にとっても、仁鶴師はなかなか高座を観ることが出来ない一人で、米朝師よりも生で触れた回数が少ないことからこのBOXの報に触れた時には、期待が高まったのは当然。
しかし、その内容は想像をはるかに超えるものであり、十八番の「向う付け」「延陽伯」や、非常に珍しい「人形買い」等、見所、聴きどころが満載。
特に、上方噺の「次の御用日」や、東京でもお馴染の「初天神」（天神様に向かうまでの、家でのやりとりが長い時間をかけてじっくりと描かれていて新鮮）は、大阪庶民の息遣いがリアルに伝わり、目の前に広がる光景は、江戸のそれとは全く異なる。
当たり前ですが、東京の落語は江戸が舞台なので、落語を聴いて自分なりの江戸を頭に描き出しているはずですが、仁鶴師の高座が描き出すのは、生き生きとした商人の町、大阪。圧倒的な、大阪の姿。
地名が関西のものだからという、そんな簡単な理由ではない、もっとリアルで力強い、大阪庶民の生活感。
そんな光景がぱっと目の前に広がるのは、落語ビギナーはもちろんのこと、特に江戸落語になれている落語通には、圧倒的に新鮮な、まったく新たな体験。
ここにあるのは、確かな「大阪の粋」。
これは、一種の異文化体験と言ってもいいかもしれません。
そして更に付け加えるとすれば、落語会としては異例と言っていいほどの、舞台装飾の素晴らしさには思わず息をのみます。
竹林や、紅葉など、毎回、大げさではなく、また噺の世界を邪魔する事もなくも、しっかりとその存在をアピールする背景とそれを照らすライティングの美しさは、セット自体も舞台芸術の域に達していると言えます。
そして、そのセットに彩られた高座を記録するカメラワークも、落語会を収録したDVDとしては異例中の異例。
決して派手ではなく、世界観を邪魔することのないように配慮されながらも、その実は、複数台のカメラを用いて、ここぞという場面で仁鶴師の横顔をアップでとらえたり、前述の舞台セット越しに高座を後ろから映し出す事によって、高座と客席を包み込む幻想的な空間の魅力を余すことなく切り取っています。
このカメラワークは斬新を超えて、このDVDを単なる落語会を収録した映像ではない、一流の映像作品たらしめています。
演者、舞台、収録等、全ての面に置いて一切の妥協のない、とても贅沢な作品。
そして、細かい事ですが、とにかく音のバランスが素晴らしい。
師の語り口は細部まで明瞭に聴かせながらも、観客の笑い声を絶妙なバランスで収録することで、まるでその場にいるような臨場感を味わえます。
専門的過ぎるものの見方ではありますが、ここまで音のミックスにこだわった作品を他に知りません（そこまでやらずとも、というレベルです）。
全てにこだわりつくした映像作品は、落語の映像では初ではないかと思えるほどの完成度を誇る本作品の充実度合いには舌を巻きます。
よしもと100周年、仁鶴師50周年ということで、NGKのある千日前は昨年から、仁鶴師のどアップの垂幕で、仁鶴師一色に染まっています。
その一種異様な光景にも何も気にする事なく往来を行きかう大勢の人達を見るにつけ、大阪という町の育んできた独特の文化と、仁鶴師の浸透具合に、江戸っ子の僕は、ただただ圧倒されるのです。
蛇足ですが、僕は15年くらい前、『バラエティー生活笑百科』にレギュラー出演されていた弁護士先生と、契約に関することで戦った経験があり、仁鶴師の顔を拝見するたびに、その時のことを思い出してしまいます。あれは、大変な仕事でした・・・。
仁鶴節健在!!!
満を持してスタートしたなんばグランド花月での独演会より
お馴染の演目から初披露のものまで八席を完全収録。
DVD4枚＋CD4枚（演目は同一）
上方落語界の重鎮、笑福亭仁鶴。
2012年4月の笑福亭仁鶴50周年を記念して、2008年～2011年まで開催された〝なんばグランド花月〟での独演会を完全DVD化。
若手の頃から「初天神」をはじめ、この独演会のために初めて演じた「宿屋仇」、現在では演じ手が非常に少ない珍品「人形買い」など8席を収録。
DVD4枚組＋特典CD4枚組(演目は同一)
仁鶴が語る演目解説付き
■2008 年（平成20年）9月26日収録 収録時間：51分
「向う付け」24分 若き日の仁鶴が蘇らせた爆笑落語
「次の御用日」27分 船場の商家と奉行所を舞台にした大阪らしい噺
■2009 年（平成21年）11月3日収録 収録時間：57分
「兵庫船」29分 西の旅から大阪へ戻る船中で起こる騒動を描く
「崇徳院」28分 商家の若旦那と御嬢さんの恋物語
■2010 年（平成22年）11月3日収録 収録時間：61分
「延陽伯」25分 若手の頃から得意に演じたおなじみの噺
「宿屋仇」36分 この独演会のために初めて演じたネタ
■2011年（平成23年）11月3日収録 収録時間：57分
「初天神」28分 爆笑王初代春団治に影響を受けた十八番
「人形買い」29 分 師匠六代目松鶴から伝わった珍しいネタ
これが、本BOXのCM映像。
仁鶴師の独演会だからこそ実現した、とても洗練された舞台装飾は素晴らしいの一言！
「なんばグランド花月 笑福亭仁鶴 独演会」DVD4枚＆CD4枚BOX
【発売日】2013年4月1日
【価格】18,060円（税込）
【仕様】各2席、計8席収録。DVD4枚、CD4枚の計8枚セット（DVDとCDの内容は同じ）
【品番】YRBA-150~7
【発売元】よしもとアール・アンド・シー
フルカラー解説冊子付き、豪華化粧ケースに収納の保存版BOXセット
