五街道雲助10「髪結新三(上・下)」
(SONY来福レーベル / 2015/4/22発売 / 3,333円(税抜))
4月22日にソニーの来福レーベルから朝日名人会ライブシリーズの104タイトル目として発売されたのは、この五街道雲助「髪結新三」。上下を2回に分け、それぞれ2014年4月19日と5月17日に朝日名人会で披露されたものをライブ収録したこの作品は、2枚組、トータル80分以上の熱演が収録されている。
熱演といえども雲助の高座は感情の起伏が前面に出ることなくいい意味で平坦な為、その淡々とした加減が極めつけの悪役である新三や、親分の源七に重厚感をもたらし、大仰ではない現実的な凄みを与えている。
この「悪さ」や「凄み」の現実感は、この長い噺に新たな命を吹き込み、今とは大きく時代がかけ離れているはずの会話もリアルなものとして、聴く者の感情をいとも簡単に揺さぶることに成功している。
難しいことは抜きにして、一緒に腹を立てたり、ほっとしたり、許すまじとおもったりといった感情移入の度合いが高く、雲助の描きだす世界にぐいぐいと引きこまれていく。また、地と台詞部分の抑揚の変化もさほどない淡々とした語り口がこの長い噺を退屈にすることは一切なく、逆に常に平熱でいるからこそ、悪事はより悪しき行いに、悪意はより冷血なものへと浮き上がり、聴き手と静かにそれらを共有することを可能にしている。
通の方のみならず、若いお客さんや、落語を聴き始めて日の浅いお客さんからも雲助への賛辞を聞くことが非常に多く、今まさにノッている演者の一人として目が離せない。若いお客さんを中心に屈指の人気を誇る桃月庵白酒を筆頭に、隅田川馬石、蜃気楼龍玉と3人の弟子を人気真打にまで育て上げながら、自らの進化を歩みを一切止めることなく更に高みへ行こうとギアを上げている雲助は、今また何度目かの旬を迎えている。その事実が伝わってくるCDとして、この2枚組の長編は、演目ものみならず収録や発売のタイミングも正しいと思える。要は必然性があるのだ。
ブックレットに掲載の山本進氏の解説も適切かつ詳細で、この熱演への理解を深めるには大いに役立つ。落語という娯楽に多少のアカデミックな側面も併せ持たせたその加減が非常に心地いい、秀逸な作品といえる。
芝居噺の醍醐味とともいえる鳴物入り(三味線などが噺の効果音として挟み込まれること)で演出された点も、実に雲助らしいと言っていい。
平成25年度芸術選奨文部科学大臣賞、大衆芸能部門を受賞した雲助の巧みな演出と、過剰さを排した引き算の魅力を大いに堪能したい。
TEXT:加藤孝朗(ハナシ・ドット・ジェーピー)
来福レーベルのCD発売告知フライヤー
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