鑑賞レポート
2015年3月19日
「あったか落語ぬくぬく その八」
会場:成城ホール
出演:瀧川鯉昇 / 柳亭市馬 / 三遊亭兼好
“いぶし銀”というか、まるでスモールベースボールを地で行くような会。
すでに8回目の開催。
かといって純度100%の通好みの会かというと、まったくそんなことない。
高そうで実は優しいハードル。
「落語はサービス産業」というのを知らぬ間に染み込ませて、楽しませてくれる。
まず演者が高座に上がる際に、皆笑顔。
何が楽しいんだか…お客さんとの間合い、会自体がそういう雰囲気にさせる。
ある意味、“晴れ”の時の寄席のイメージ。
これは恐らく目立たぬように、それでいて周到なお席亭の戦略でしょう。
落語会のタイトルなんて、まあどうでもいいものだが、この「あったか落語ぬくぬく」は、まさに名は体を表す。
昔、夏に行われたこの会で兼好さんが「『あったか落語ぬくぬく』とは、まあ季節感とか考えずに安直に決めてしまったんですね」と言ってたが、これは季節というよりは落語の持つ“ふんわり”したものと、その聴き終わりの包容感を捉えてると考えれば納得。
演目は、
柳亭市助「真田小僧」
三遊亭兼好「粗忽の釘」
瀧川鯉昇「宿屋の富」
仲入り
柳亭市馬「花見の仇討」
この日の演目四噺は、単打と盗塁で全員“あれ、いつの間に??”とホームに帰って来ちゃったようなもの。
クサくもならず、エスカレートしてひとり歩きもせずに、それでいてデフォルメの程が利いていて気づいたら攣り込まれて爆笑している。
兼好さんは、例によって微細な差異のある(ひとつとして同じでない?)マクラから「粗忽の釘」へ。
兼好さんではあまり聴かないが、「風呂敷」とか「宗論」とかまたは「町内の若い衆」とかに通じる素っ頓狂な、「こんな感じのおっちゃんいるよな」という面白さ。
小技を確実に積み重ねて笑わせる。
鯉昇さん、上がってまた放送事故的沈黙。
そこから何を言うかと固唾をのむと、「みなさんは、信じられないかと思いますが4日前に床屋に行きまして…」。
こちらもマクラでも十分楽しめる一遍から、「宿屋の富」。
大風呂敷を敷くフリが、これでもかとデフォルメが利く。
兼好さんもそうだが、キャラだけで飛ばすことはないが、かといって必要以上に噺を盛ることもない。
これも気づけば爆笑だ。
トリは市馬さん。
ご機嫌よく。
「成城って雰囲気じゃあないメンバーですが…」、「先輩のことは言えませんがね、前に上がった…」。
この時点ですでに「あったか落語」を体現。
市馬さんは、この時期は季節ものを好む気がする。
披露されたのは「花見の仇討」。
3人の落語は聴き流されることなく、ちょっとだけだが、確実に残音/残像を残す。
落語を観て、一期一会とその一瞬を楽しんで、スルーもありだ。
だが過剰に派手じゃなくとも、聴いた客が既視感も含めて倍音を感じるものはある。
そのキュレーション。
落語がもたらすレバレッジが効く会だ。
ようやくこの3人の落語家の並びが“すっ”と入ってくるようになってきた。
その効果を形容すると“ぬくぬく”?
まんまと術中に嵌ってきたようだ。
TEXT:凡梅@STREET-WISE