林家きく麿(はやしや きくまろ)
本名:高田 大輔
出身地:北九州
生年月日:昭和47年7月16日
身長:175cm
特技:パントマイム
平成8年11月 落語家 林家木久蔵に入門
平成9年2月 前座になる 芸名 林家十八(はやしや とっぱち)
平成12年5月 二ツ目昇進 林家きく麿に改名
平成22年9月 真打昇進
出演テレビ:名古屋テレビ 「わっしょい」、UMKテレビ宮崎 「ジャガジャガ天国」、NTV 「24時間テレビ」、RKBラジオ 「ホークス 歌の応援団」、NHK朝の連続ドラマ「こころ」、2009年「NHK新人演芸コンクール」、NTV「笑点」
瀧川鯉八(たきがわ こいはち)
本名:吉田 誠
生年月日:昭和56年1981年3月27日
出身地:鹿児島県
階級:二ツ目
平成18年8月 瀧川鯉昇入門 前座名「鯉八」
平成22年8月 二ツ目昇進
新作落語を、気楽に楽しむために始まった会「新作カフェ」。
当サイトでもインタビューで取り上げさせていただいた、Vol.1のぬう生さんの会は満員御礼と好調な滑り出し。
そのVol.2が、すばらしくナイスな企画。
「林家きく麿・瀧川鯉八 二人会」と銘打ってはいますが、このお二人、お顔のみならず、体型や、雰囲気までもが、非常に似ています。
この似ている二人でくくってしまうという思い切った企画を聞いて、さっそく取材のオファーしました。
お互いのキャリアや、ネタの作り方など、偶然にも共通する点も多いながらも、やはりそこは芸人同士。まったく異なる面や、納得しあう場面も。そんなお二人が、お互いのネタを交換するという企画まで飛びだすこの二人会(きく麿⇒鯉八作「やぶのなか」、鯉八⇒きく麿作「パンチラ倶楽部」)。
さぞかし、楽しいものになるに違いありません。
取材・文章・写真:加藤孝朗
「新作をやっているので、ダメだと言われないように、責任はちゃんととろうという感覚は芽生えてきましたね」(きく麿)
―― お二人とも九州のご出身です。
きく麿:はい。でも、北九州市と鹿児島なんで、横浜と群馬ぐらい違いますよ(笑)。やっぱり九州というだけで親近感は沸くし、共通の話題もあるので仲良くなったりはありますけど。
鯉八:テレビで見たんですけれど、女性と話す時で、何を話していいかわからない時に、出身地と今住んでいる最寄駅を聞けば必ず盛り上がるらしんですよ。だから、今の話と同じで、知っている情報を出せばきっかけになると。で、実践したんですけど、全然、ダメですね(一同爆笑)。
ーー 各々のキャリアをお伺いしたいのですが。まず、きく麿師匠からお願いします。落語の原体験は?
きく麿:落語の原体験はゼロですね。僕はお笑いをやりたかったんですよ。僕が学生の頃はピン芸人ってほとんどいなくて、じゃあ漫才をやるかとなった時に相方が必要じゃないですか。でも自分はお笑いに関しては尖がっていたので、「オレの笑いについてこられるヤツはいない」と思っていたので、じゃあ一人でやれるのは何かと考えて、落語に行きついたんです。
ーー 東京には出てこられていたんですか?
きく麿:いやいや、福岡にいて、枝雀師匠のもとに行くか、うちの師匠のもとに行くか迷ったんです。その時、情報はテレビとかラジオしかなくて、「大阪の芸人さんは東京に行くときにまた一からやり直さなければいけない」というのを聞いて、それなら東京に出た方が手っ取り早いと思ったんです。あと、うちの師匠は見た目で、人柄が良さそうだったので。枝雀師匠って、見た目は怖いじゃないですか(笑)。で、うちの師匠が福岡に来た時に、弟子にしてくださいと言いに行ったんです。
ーー すぐに入門は許されたんですか?
きく麿:いやいや。会場に会いに行って、なんかセンスの悪い服を着たお兄ちゃんがふらふら歩いてるんですよ。その人に言ったら大丈夫そうだと思って、「師匠に会いたいんですけど」って言ったら、その人が一つ上の兄さんの久蔵兄さんで。久蔵兄さんも下の方で苦労していたので、「すぐに、会わせてやる!」って、師匠に会わせてくれたんです(笑)。で、軽い握手をして、「じゃあ、履歴書を送ってください」と言われて、で、1年間待たされたんです。師匠は、取るつもりはなかったらしいんです。ちょうど息子が入ったところだったので、もう打ち止めと。もう下は取らないと。で、とにかく1年間は待ちなさいと言われていて、僕は手紙を結構頻繁に送っていたら、師匠は筆まめなので必ず返事をくださるんですね。で、やり取りしていたら、そんなに落語家になりたいのなら仕方がないから出ておいでということで、やっと取っていただいたんです。
ーー 九州から落語界を見ていて、上方と東京をどちらに行くかを検討していたという視点は新鮮です。
きく麿:だから、落語を知らなかったんですよ。知っていたらうちの師匠の所に入っていないですよ(笑)。
ーー いかがですか、真打になられて。
きく麿:真打のお披露目というのがとにかく大変だったんですよ、いろいろと。自分で責任を取らなくちゃいけないという意識は出てきましたよね。やっぱり。前座、二ツ目の時とは違って、失敗は許されないという意識がありますから。高座に責任感が出てきたんじゃないかなと思います。もちろん、あの人は真打なんだという目でお客さんから見られるし、特に新作をやっているので、ダメだと言われないように、責任はちゃんととろうという感覚は芽生えてきましたね。二ツ目の時からそうなんですが、サボろうと思えばいくらでもサボれる仕事なので、やっぱり真打という名前が後ろにあるおかげでサボれなくなってきましたね。
ーー 二ツ目の時代にくさってバイトしていたという人もいました。
きく麿:ああ、僕もくさってラーメンばっかり売っていましたよ(一同爆笑)。
「僕、師匠に会ってすぐに言いましたよ。まくらが凄いって。さんま師匠が松之助師匠に「あんたが一番センスある」といったのと近いことを。言い方はもっとマイルドでしたけど(笑)」(鯉八)
ーー 鯉八さんにもお伺いしたいんですが。落語の原体験は?
鯉八:僕もほぼ途中まで、きく麿師匠と同じです。あの、お笑いに関して尖っててというくだりも同じです(一同爆笑)。僕も、一人でやった方がいいなと思ったというところぐらいまでは同じです(笑)。落語に出会ったのは、東京の大学に来て、そこで落研に入ったのがきっかけで。あ、萬橘師匠と同じ落研なんです。落語家仲間の三遊亭小笑さんは同級生なんですけど、小笑さんは昔からウッチャンナンチャンが好きで、ウッチャンの方が好きで、僕は悔しいからナンチャンを好きになって。で、気分は上々という番組でトークしていて、ナンチャンが高校の時に落研だったって言っていたんですよ。それで、僕は大学に入ったら、落研に入ろうと思って。それがきっかけです(笑)。
ーー 落語にはあまり興味なくですか?
鯉八:そうですね。僕はあまり人と話すのが得意じゃないので、何かを表現したいなと思っても、なんとなくのイメージで、落語は座布団に座って話をしている時は誰にも遮られないなと思ったんです。普通に話をしていても、どもったり、噛んだりするので会話が成り立たなくなるんです。だから喋るのを躊躇してしまうんです。落語なら、その持ち時間を誰にも止められないなと思ったんです。今思うと。
ーー で、大学で落研に入って、だんだんと落語というものに魅せられていくという流れですか?
鯉八:いや、萬橘師匠と同じで、僕らのいた落研は落語をやらなくてもいいという所だったので、僕も興味はなかったので見聞きはしなかったんですけど、そこを出てからCDとかでよく聞くようになって、好きになってきて。で、昇太師匠のファンの友人がいて、チケット一枚余っているから一緒に行こうと誘われたのが柳昇チルドレンの会で、桃太郎師匠、うちの師匠の鯉昇、昇太師匠が出て、その時のうちの師匠がめちゃくちゃ面白くて。ネタは「長屋の花見」だったと思うんですけど、その記憶はほとんどなくて。まくらが異常に面白くて、あの、鳥のエサ喰って空飛んだっていうまくらと、あとMRI受けて脳みそがないと病院の裏庭が映るというまくらがあるんですけど、この2つがめちゃくちゃ面白くて、お客さんは笑ってるんですけど、笑っているお客さんの誰よりも僕の方が面白いと思っていると思っちゃったんです。皆、違うと。全員ひっぱたきたくなっちゃったんです。笑っているけど、これは笑う前に衝撃を受けなければならないレベルの話だと。で、これは師匠が呼んでいると思って、師匠に会って、「僕が誰よりも一番面白いと思いました」と言いたくなっちゃったんです。で、その一週間後くらいに池袋で睦会をやっていて、そこにすぐ行って、入門のお願いをして、すぐに良いよ、となって。
ーー すぐなんですね。
鯉八:はい。「前科ある?」ってだけ聞かれて、「ない」といったら、いいよということになって。で、二ツ目になって発覚したんですけど、その前科っていうのは、他の師匠の所に行ったことがあるかということだったらしくて。知らなかったんですけど、まあ、どっちもなかったんでよかったんですけど(笑)。でも、僕、師匠に会ってすぐに言いましたよ。まくらが凄いって。さんま師匠が松之助師匠に「あんたが一番センスある」といったのと近いことを。言い方はもっとマイルドでしたけど(笑)。
ーー その反応はいかがでしたか。
鯉八:師匠、嬉しそうでした。師匠は、自分のまくらとか、くすぐりとか褒められるとすごく嬉しがるというか、師匠もそこに命を懸けているんだと思いますが。すごく嬉しがってくれて、「実はこんなのもあるんだ」って教えてくれたり。「本当は、こうしようとしてたんだ」とか。今でも、そういう話が師匠と出来るのが嬉しいですね。
ーー じゃあ、鯉昇師匠の高座を見てから、入門まではすぐですね。
鯉八:はい。そうですね。楽屋入りまでも三か月ぐらいだったので。
これいけるな、っていう単語が浮かんだら、多分もう10日後には話が出来てるだろうなというのが分かるんです。(鯉八)
それはあるよね。このシチュエーションがあって、これで作ろうというのもあるけど、一つの言葉があって、そこから作るというのもあるからね。(きく麿)
ーー というお二方であって、世代も協会も違っていて、絡むようになってからは長いんですか?
きく麿:いやいや、ちょこちょこ会うくらいだよね。最初の頃は、鯉八が入ったころに、皆がお前にそっくりなヤツが来たぞって言い始めて。浅草演芸ホールに行ったら、二楽兄さんが僕のこと指さしてゲラゲラ笑うんですよ。「なんですか、兄さん?」って聞いたら、「お前にそっくりなヤツがいるんだよ」って笑うんで。その頃から、似てるヤツがいるんだなと思ってたんです。で、会った時に、自分でも「ああ、似てる」って思って、で、僕の昇進パーティの受付をやってもらって。皆が二度見するっていう。「本人が受付にいるよって」(笑)。
鯉八:親戚の方にも間違われたんです。「あんた、早く着物に着替えなさいよって、言われました」(一同爆笑)。
ーー もちろん何人か受付の人はいるんですよね。
鯉八:そうなんですよ。でも、僕の前だけ、凄い人の列が出来ちゃって。もう、申し訳ないんですけど、ちゃんとした対応が出来なくなっちゃって。おざなりになり始めちゃって(笑)。「あいつのパーティなのに、本人、対応悪いな」とか思われちゃったんじゃないかと思って、申し訳なくて(一同爆笑)。
ーー それは、ネタとしては面白いですね。
きく麿:そうなんですよ。で、あと、作る噺と似てるって、鯉八本人が言うんですよ。全然ちがうと思っていたんですけど、他の人からも言われることも多くて。普段の話し方や内容も似てるとかも言われて。
鯉八:僕はなんとなく落語のテイストというか、なんか似ているような気がするんですよね、おこがましい話なんですが。似てるというか、近いような気がするんです。それは不思議ですよね。声とかが似ているというだけでなく。で、今回ネタ交換させていただくにあたっても、ネタを見せていただいた時にも、言葉にできないんですけど。
ーー 9月8日の会は、ネタ交換がありますが、この企画は誰の発案なんですか?
きく麿:なんか、普通に二人会やっても面白くないので、顔が似ている二人がそれぞれのネタをやるのもいいかなと。なんか企画がないと特色が出ないし。コントやるとしたら、合わせなくちゃいけないじゃないですか。タッチみたいになっちゃうかな(一同爆笑)。
ーー ネタ交換のネタはどのように決められたんですか?
鯉八:きく麿師匠の噺は僕が「これをやらせてくれませんか」と選んで、僕の噺は僕が「これをやっていただけませんか」とお願いしました。
ーー ネタの選択の基準は?
鯉八:僕を聞いたことがある人が、これは鯉八のネタだと認識してもらえるようになっているネタが良いなと思って選んでみました。
きく麿:多分ね、鯉八が選んだネタは、CDになっていて、これ渡せばいいやってヤツを選んだだけなんですよ。きっと(笑)。
鯉八:師匠の噺も、僕が好きなものとかではなくて、きく麿師匠と言えばこれ、という感じの代表作を選んでお願いしました。
きく麿:そうなってきてるんだよね、なんか。パンチラの人とか言われるんだよ(笑)
ーー お互いの代表作の交換ですね。
鯉八:ネタ交換をやるにあたって、自分の色をちょっと入れた方がいいかなと考えたんですけど、「パンチラ倶楽部」のファンの方は、「絶対変えるな」って言うんですよ。そのままやってくれって。
きく麿:ただ、歌さえ抜かなきゃ、変えてもいいと思うんだけどね。多分、歌は皆、聞きたいんだろうね。らく里さんがやった時は、歌抜いたんだよね。
鯉八:らく里兄さんはなぜ抜いたんですか?
きく麿:聞いたら、「あれは兄さんの歌なんで、僕には歌えません」って。どういうことやって(笑)。なんか、世界が違うんだって。らく里さんの思い描くパンチラの世界と、僕の思い描くパンチラの世界が(一同爆笑)。そこでさ、胸ぐら掴んで「なんでパンチラ、歌わなんだよ」とは言えないしさ(笑)
ーー あの歌の完成度は素晴らしいですよね。
きく麿:ああ、そうですか。僕、結構歌ネタ作っていて、全部サイゼリヤで作ってるんですよ(笑)。カセット持って行って、歌いながら、歌詞書いて。で、歌って。再生しながら、けけって笑って。でも最初のフレーズが出た時には、大体完成ですよね。
鯉八:この前、同じことを小田和正が言ってました(笑)。
ーー パンチラと連呼している割には、なんか物悲しくもある噺ですよね。突飛な世界を描いている割には、ばかばかしいだけではなく。
きく麿:僕が噺を作るときには、一般社会の中でちょっと踏み外したらこんな違う世界もあるっているのがテーマというか、大体そういう話を作っているんですよ。誰でも体験しうるようなことを書いているので。どうでもいいことにこだわるという噺が好きなんですよね。
ーー もう一つの鯉八さんの噺の「やぶのなか」ですが、どういうことを期待していますか? 芥川龍之介ですよね。
鯉八:はい。あれは僕の中ではちょっと毛色が違ったもので、完全に頭で作った噺なんです。ばかばかしい内容だと思って作ったんですけど、結果として演者がやっていてあまり楽しい噺じゃないと思うんです。
ーー 「やぶのなか」はいろいろ発展しながらも、結局は何も起こらない噺ですよね。
鯉八:はい。僕は、何も起こらないとか、展開しない話が好きで。まあ、あれは全員、独白なんですけど、その独白が会話しているように聞こえるような構成として作っています。だから、高齢の方とかは、ちぐはぐな会話をしていると取る方もいるんですよね。独白なんだけれど、会話の様に聞こえるので、「鯉八さんって、頭良いな」と思われるように作っているんです(笑)。
きく麿:鯉八の方がちゃんとアタマ使って噺を作ってますよ。僕は、ただ筆が進むままに作ってますから。あまり、構成がどうのとかは考えずに作っちゃいますから。
ーー 筆は早い方なんですか?
きく麿:早い方だと思いますよ。ノッてくると、バーッと書けますから。
鯉八:師匠の噺は、内容はばかばかしくて、言うギャグもばかばかしいのに、すべての台詞が、語尾も含めて一つも無駄がないって思ったんですけれど。それは、すごく気を付けているんですか?
きく麿:ああ。でも、それは書き直すからね。ノートに一回バーッと書くやつを、清書しながらいらないところを削っていって、結局3回ぐらいは書き直しますよ。それで一つの作品になって、またそれを高座でやるたびにどんどん変わっていくから。
ーー ネタおろしをされて、高座にかけるたびにも変わっていきますか?
きく麿:ちょっとずつ変わっていきますね。途中で面白いことを思いついたりとか。噺はずっと変わっていきますよ。部分的になくしたりとか、足したりとか、永遠にやると思いますよ。それが落語だと思うし。時間をかけて出来上がっていくものという意味では。そうやって、どんどんかわいい子になっていくんですよ。
鯉八:作っていて、末っ子が一番かわいいっていうのはないですか?
きく麿:ないな。全部、かわいいよ。ダメな子もかわいい。
ーー 鯉八さんは末っ子が可愛いんですか?
鯉八:僕は、新しい子がかわいいです。僕は、手をくわえないんで。
きく麿:えっ、そうなの?
鯉八:はい。僕は、台本が出来た時に完璧になるんで。台本を完成させるまでは、ああでもないこうでもないってやるんですが、そこからは、手を加えるというか、削ることはあっても、足すことはないですね。古典でも、最近の皆さんはいろんな入れごとをするじゃないですか。でも、僕は、全く思いつかないんです。
きく麿:ノートとかに書くの?
鯉八:いや、ほとんど書いたりはしないですね。最後に記録用としては書きますが。ノートに書くときにはほとんどすらっと言えるようになってます。
きく麿:あ、本当に? すごいね。
ーー 人それぞれですね。きく麿師匠はどのように作られるんですか?
きく麿:僕は、誰が出てきて、どういう噺になって、誰と出会ってとか、流れを矢印で書いたりして構成しますよ。
鯉八:これいけるな、っていう単語が浮かんだら、多分もう10日後には話が出来てるだろうなというのが分かるんです。だから、それが浮かぶかどうかが勝負なんです。常に、引っかかるものはないかと探しているのが、日々の産みの苦しみなんです。
きく麿:それはあるよね。このシチュエーションがあって、これで作ろうというのもあるけど、一つの言葉があって、そこから作るというのもあるからね。
「リンクしましたね、僕と」(鯉八)
「なんか、やっぱり似てるのかなと、ふと思いましたよ、今(笑)」(きく麿)
ーー 新作をやることに対する利点、不利益ってどのようなものがありますか?
きく麿:利点っていうのは、ただの自己満足でしかないですよね。やっぱりネタおろしとかで、お客さんに受けた時の気持ちよさというのは、エンドルフィンの量が違いますよ。不利益は、いっぱいありすぎて(笑)。あ、そうそう、打ち上げの時には、ネタおろしでウケた人はやたら喋るんです。ウケなかった人は黙ってる(笑)。
鯉八:そうそう。本当にそうなんですよ(笑)。
ーー 鯉八さんはどうですか?
鯉八:僕の能力的には、古典をやっているだけよりも、新作をやっていることで知ってもらえている気もするので、僕には新作の不利益はないですね。新作をやっていたから、顔が似ているというだけで、今回の会に呼んでいただけたというのも利点だと思いますし。
きく麿:あと、不利益な点で言うと、噺を作れなくなるかもしれないという不安がありますね。
鯉八:いやー、僕もあります!
きく麿:話が作れなくなるんじゃないか。または、売れてしまったら面白い話が作れなくなるんじゃないかという不安が。
鯉八:いやー、それもありますわー!
ーー その不安は、他のジャンルの方も持つものですね。
きく麿:そうですよね。僕は絵が好きで、結構美術館とか行くんですけど、売れた後の絵って全然魅力ないじゃないですか。それと一緒ですよね。売れてしまうと、ココロのもやもやした葛藤が出てこなくなっちゃうんじゃないかとか、ドロドロしたものが湧き出してこなくなっちゃうんじゃないかとか、惰性だけでやっちゃうんじゃないかとか、という不安を感じることはあります。そういう、作れなくなるんじゃないかという不安は大きですね。
ーー その不安とは共存し続けないといけないですね。
きく麿:でも、「なんで売れないんだよ、オレ、面白いと思っているのに」という気持ちをぶつけるのが楽しくもあるので、矛盾ですよね。売れたらいいなとは思いますけど。
鯉八:僕、藤子・F先生が好きで、ツイッターのお気に入りに入れているんですけど、「これを作ったら、もうアイディアがなくなっちゃうんじゃないかと思うんだけど、作り上げてみると、また新たなアイディアが湧き出てくるんだ」って言っていました。
ーー 新作を取り巻く状況に変化を感じたりしますか?
きく麿:うーん、特には感じないですね。僕は。ただ、落語全体のファンが増えてきたので、新作を聴く方もちょっと増えたのかなって気はしますかね。特に新作ファンの方が増えたという感じはしないですね。
ーー 落語を聴く層が広がったことで、古典と新作を分け隔てなく聴く方が増えた印象があるのですが。
きく麿:ああ、それはあるかもしれないですね。むかしは、新作嫌い、古典じゃないとだめだっていう人は確かに多かったですね。
鯉八:人で選ぶ時代になってきている気がします。
ーー そうですね。その傾向は強いですね。
きく麿:そうですね。「誰を聞くのか」ということですよね。それと、若い人が増えてきている感じはしますよね。僕が入った時なんか、池袋とか本当に人入ってなかったもんな。一人とか二人とかよくあったし。特に深夜(末廣亭で行われている深夜寄席)が変わりましたからね。僕たちが入った頃は、深夜寄席は30人いるかいないかだったので、本当に噺を練習する場所だったんですけど、R25か何かで取り上げられてちょこちょこ人が増え始めて、行列が出来るようになって、もう勉強できる場じゃなくなっちゃいましたからね。人気スポットになっちゃって。
ーー そうですよね。90年代の中頃までは全く違いましたよね。
鯉八:僕は「タイガー&ドラゴン」の後だったので、深夜寄席もそうなんですけど、寄席にも人は多いという印象から入ってます。
ーー 「タイガー&ドラゴン」も含めて、2000年代半ばのメディアを含めた落語ブームは一つの起点になっていますよね。それ以前と、それ以後に。
きく麿:明らかに変わってますよ。若い人が寄席に行っても平気になったし。それまでは、寄席って入れなかったですからね。なんだかわからない空間だったから入れなかったんですよ。禍々しい妖気のようなものがあって、「入っても大丈夫かしら?」って感じで、若い子なんて怖いから入れなかったですよね。だから、深夜寄席の人気が出て、入ってみて、「ああ、こういう所なんだ」と思った人も多いと思うし、「タイガー&ドラゴン」なんて寄席の雰囲気そのままを出していたので、それで、「テレビで映ったところを見てみたい」という人も増えただろうし。で、入って聞いたら面白いですからね、落語っていうのは。
ーー 新作の可能性についてお伺いしたいんですけれど。
きく麿:もっと、ドラマとか、映画とかになってほしいですよね。どっかで「ダレダレダイエット」(きく麿師の新作)をやっている時に、打ち上げで変なおじさんに「君こっち来い」って言われて、「これは君が作ったのか?」って聞かれて「はい、そうです」って答えたら、「続きはどうなってるんだ?」って聞かれて、「ないです。終わりですこれで。」って言ったら「そうか・・・」って。それが、実は、「踊る大捜査線」の脚本家の方だったんです。
鯉八:君塚さんですか。ええっ!
きく麿:「面白い」って言ってくださったんですけど。映画になるように、ごますっとけばよかったかな?まあ、なんかそんな感じで、新作落語を短編映画にしたようなものをやりたいですね。1話30分ぐらいで、4本ぐらいのオムニバスで出来たらいいなって思います。
ーー 夢がありますね。でも、可能性はありますからね。
きく麿:映画は映画のフォーマットがありますから、新作落語を原作、原案としてやってもらえれば楽しいなと。
ーー 鯉八さんはどうですか?新作の可能性については。
鯉八:僕は最終的にはジャンルの一つになりたいなと思っているので。映画になるとかよりも、映画、小説、ドラマ、落語、鯉八みたいな。こういうことを落語家さんにいうと結構嫌われるんですよ。落語家は落語の中で生かされているんだという風に言われて。でも、僕はそこを超えたいんです。
きく麿:まだ、尖がってんじゃん、お前(一同爆笑)。
ーー いちジャンルになりたいというのは、ものすごく壮大なことを言われているようでいて、何かわかるような気がします。
きく麿:でも僕も、こないだ、こういうネタを作ってるんですよ。悩んでる人が相談に来て、「僕は基準になりたいんですけど、どうすればいいんですか?」っていう。要するに、「重さで言えば小錦2人分、背の高さならジャイアント馬場、広さなら東京ドーム、もっと大きければディズニーランド、足の早さならチーターじゃないですか。僕はなんの基準になれるんですか?」っていうネタを作ったんですよ。
鯉八:ええ!面白い。リンクしましたね、僕と。
きく麿:なんか、やっぱり似てるのかなと、ふと思いましたよ、今(笑)。
ーー この会の見どころなどを教えてください。
きく麿:自分が何のネタをやるかは決めてないんですが、鯉八くんのセンスやエッセンスを僕がどれだけ吸収して消化できるかは、見どころでもあるし、顔は似てるけど全然違うと思うので。僕の「パンチラ」がどう変わっていくのかは、僕も楽しみだし。僕の中から生まれ出た子供が、人の手によって育てられるってことはすごく楽しいので。その僕の楽しさがお客さんに伝わればいいなと思いますね。
鯉八:僕は、どう変えていくのかとか自信はないんですけれど、台詞とか台本を変えなくても、僕がやるだけで違った印象になるはずなので、きっと素敵な会になるだろうと思います。もう、めくりなんていらないですよね。
きく麿:いらない、いらない。「A」と「B」って書いておけばいいよ(笑)。
公演情報
《新作カフェVol.2》林家きく麿・瀧川鯉八 二人会
新作落語の会もいろいろありますが、
落語になじみのないお友達を誘っても大丈夫な、
のんびりと筋もののお笑い(=新作落語)を楽しむ、みたいな会もあったらいいなと。
といっても”新作落語入門”の会にする気はさらさらなく、
新作落語好きの方に、まずは興味をもっていただける会にできたらと思っています。
第2弾は、林家きく麿さんと瀧川鯉八さんの二人会です。
一部で「似てる…!」と評判のお二人。
どんだけ似てるか並んでいるところを見てみたい、
という声なき声にお応えしました。
なんとネタ交換もあります。
【日 程】9月 8日(木)
【会 場】らくごカフェ(千代田区神田神保町2‐3 神田古書センター5階 Tel.03‐6268‐9818)
【時 間】開場17:30 開演18:00
【料 金】予約 1,800円 / 当日 2,000円
【ご予約・お問い合わせ】shinsaku_cafe@yahoo.co.jp
【WEB】http://shinsakucafe.blog.fc2.com