【鑑賞レポート】2017/3/15 “月例三三”@イイノホール


三月も半ばに入った一五日。この日の東京の天気は、予報だと雪だるまマークさえ見え隠れするほどの、冬の寒さがぶり返したような悪天候。しかし当日はなんとか雨降りには至らず、ホッと胸を撫で下ろしながら、仕事を終えて会場へ向かった。仕事終わりのクタクタな体に、輪をかけて突き刺さる冷たい風に、心折れそうになりながらも、霞ヶ関のイイノホールに到着!

溜まったストレスと心身の疲労のせいで、せっかく初めてゲットした前方の席にも喜びがこみ上げてこず…。うーん、なんだか帰ってすぐ寝たいかも…なんて。いやいやまてよ、三三ファン必見のこの月例会、チケット取りが本当に至難。昨年の連続口演の際には、新参者のワタシは力及ばず、泣く泣く見送ったんだっけ。落語を聴き始めてようやく一年が経った程度の若輩者のワタシには、遠い存在…。それがようやく、チケットをゲットするための要領?をつかみ、この度晴れて前方四列目の席を抑えることに成功したのだった。できることなら、細かい表情やしぐさもシッカと見ておきたいぞ!
三三師匠を間近で見る大チャンス!…ということで、ふさぎこんでいた気持ちを持ち直したところで、幕開け。

三三さんが先日行った大分にある高崎山のサルのお話から。時間ができたので、ロープウェイに乗ることにしたけれど、到着までがたったの5分程度!実は徒歩で行くのとそんなに変わりがないそう。期待感とは裏腹に、ロープウェイで着いた先は意外とこじんまりしていて、お猿さんの数も少なめ。ちょっぴりガッカリしていたところで、案内してくれた女性ガイドさんがしてくれたサルの『婦人会』の話が思わぬツボで、聞く価値ありの面白さだったとか。
その話も、三三さんがしてくれると面白いのはもちろんなのだけれど、サルの真似をしている姿が妙に板についていて、そこが個人的にはツボだった。さすが、和製ルパン三世!と心の中で静かに呟く。その佇まいも含めて、大好きなのですよ。

そんなマクラから、一席目は『花見酒』。この時期ならではの噺ではあるが、まだちょっと早かったかな?とご本人も呟いていた。

天秤をかついで二人でお酒を運ぶくだり、聴いていると実際にお酒の香りがぷぅんと漂ってくるような臨場感が。ごくん、と喉を鳴らす音がお隣の席からも聞こえてくる。お花見の席でお酒を売って儲けようとしたものの、酒好きには我慢できず、売る前に自分たちで全部飲んでしまうという、酒好きな私には彼らの気持ちがよーく分かる一席だった。お金がなく長いこと飲酒を我慢していただけあって、最初は耐えていたけれども、『お腹の虫が騒ぎ出して、きかない。腹の虫たちの、この声が聞こえるだろ?!』って熱く語り出しちゃうくらい、我慢の限界を超えてしまう。呑兵衛には止められぬサガであるなぁと同意した。一滴も逃さぬぞと言わんばかりに、指ですくって挙句に親指までしゃぶり倒してしまう三三さんのしぐさにも、それがよく表れていた。その姿、なんだかちょっと色っぽくもある。

二席目は、ネタ出ししていない噺なので何をかけてくれるのかと期待感が高まっていたところ、本日はなんと、『金明竹』だった!個人的に大好きな噺なので心の中でガッツポーズ。なおかつ、三三さんの金明竹は音源で聴いたことはあったものの、生の落語は初体験だったので、喜びもひとしおだ。それに今日はなんてったって、前から四列目だし!乱視の私にもちゃーんと見える位置だぞ。てな具合で、妙に一人でニヤニヤしてしまう。
三三さんの金明竹は、『エビのしっぽの食べ過ぎ』にフォーカスする独特な笑いのツボがあって、テンポよく純粋に楽しめる。中でも私が特に気になっていたポイントは、「ひだまりみたいな笑顔」。大阪の商人の早口が聞き取れず、帰ってきた旦那に言付けを説明しなければならないおかみさんが、窮地に立たされごまかしの笑顔を浮かべるシーンで見せる表情だ。生の「ひだまり笑顔」(笑)を実際に見られただけでも今日はもう十分…というぐらいに、満足してしまった。だって、確かに「ひだまり」っぽいんだもの。この場を笑顔で乗り切ろう、というおかみさんの心中を察することができる、この顔。こういう表現ができる三三さんに惹きつけられるんだよなぁ…。早口で流暢に口上をまくしたてるうまさももちろんだけれど、細かい描写や表現力が巧みで、安定感がある。言葉の使い分けにも、他の演者さんにはない、ちょっと文学的な香りがするところも、私が惹きつけられる理由なのかもしれない。

最後の一席は、『幾代餅』。登場人物の数も多く演じ分けが難しそうなところを、サラッとこなしてしまう凄さ。品があって凛とした佇まいの幾代大夫(あくまで私の脳内イメージで)も三三さんにぴったりの役だと思う。体の線の細さとマッチした、立ち上がる色気や立ち居振る舞いの美しさ。見ていてほれぼれとしてしまう。
清兵衛が、幾代大夫に夢中すぎるのを心配した旦那が、他にもいい女はいるじゃないかと勧めてくれる、豆腐屋のおまめちゃんとか魚屋のフナちゃんとか、そのネーミングに思わず吹き出してしまった。時事ネタも合間にちょこちょこと挟んで、会場の爆笑を誘う。サバサバとした、後味スッキリな幾代餅にて、本日はお開き。

あー、楽しかった!!お腹いっぱい。

毎度のことながら、帰り道の私の足取りは軽やか。会場に来る前の重苦しい気分とか、ムシャクシャ感もキレイさっぱり消えてしまい、肌寒ささえも、涼しい風へと都合よく変化してしまうのだった。

これだから落語はやめられないのね。

モリタヒロカ