【REPORT】立川こしら&白井良明(ムーンライダーズ) アップフロン落語会


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新たなるエンターテインメントの誕生

3月は、桜の真っただ中。
渋谷では、ソニーの「来福レーベル」のイベント、「渋谷に福来たるSPECIAL」の真っ最中の中、赤坂元気劇場というライブハウスで、立川流の新真打にして、談志師孫弟子の初真打の立川こしら師と、日本で最古の活動キャリアを誇るロックバンド、ムーンライダーズのギタリスト白井良明氏が一緒にステージに立つと聞き、取材に訪れた。

到着時には、2人でリハをしていたのだが、そのリハからして、ライブにしては、やや不可思議なリハ。サウンドチェックは行いながらも、本番の流れをさらった軽い公開練習の趣。
それもそのはず、この両氏は公演2週間ほど前に初対面し、そこから約1週間で内容を詰めてきたのだから。
それは、僕が予想していたレベルのコラボレーションではなく、とてもいい意味で裏切られた気がした。

誤解を恐れずにいうと、このような音楽と落語のコラボレーションと銘打たれたものは昨今、とても増えている。ただ、それらのほとんどは、ライブはライブ、落語は落語として行い、両社が交じり合うのはトークのみ、というようなものが多い(ちなみに筆者が昨年に継続していたコラボレーションの会もそのような進行が多かった)のだが、ここで目にしたものは、完全なる両者の融合の実験であり、新たなるエンターテインメントの創造への第一歩であり、その一歩はまさに、すさまじい賭けですらあるように思えた。

果たして、本番が始まる。

開演後は、まず白井良明氏が、ループ・サンプラーというエフェクターを駆使した完全ギター一本での歌と演奏を開始。
ここでは、ソロの曲やバンドの曲を交えながらも、初めて聴くであろうお客さんを巻き込んでいくステージングのスムーズさに、思わず舌をまいた。ここまで自然と観るものの心に直接ノックしてくるライブも久しぶりだ。

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このコーナーでは、4曲が演奏され、中には、ライブでおなじみの「青空のカズー」という曲があり、お客さんもカズーという笛のような小型楽器を持ってきていて、待ってましたと参加するという演出も。一人選ばれたお客さんはステージに上げられ、即興で良明氏との掛け合いを要求されるも難なくこなして、満場の喝采を受けると共に、この演出で一気に一体感をました客席とステージは、垣根を越えた。

「セットリスト」
1 story teller
2 I + i
3 青空のカズー
4 Sweet Bitter Candy

5 トンピクレンッ子(*こしらさんの呼び込み時出囃子として)

そのまま良明氏の生演奏にのって、こしら師の登場となった。

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こしら師は、黒のレザーの着物姿で登場。
金髪で、軽く長めの髪型が、まるでロックスターの風貌に見える瞬間があるも、着物を着ている違和感もぬぐえないのも正直なところ。
ただ、ここでマイクスタンドの前に立つならまだしも、ステージ中央に据えられていた高座に座ることによって、落語というのはどんな突飛な恰好をしていても、着物に座布団というアイテムに囲まれることによって、既に成立しうることに気が付かされる瞬間だった。

コラボレーションの一曲目は、「やはりビートルズでしょ」という良明氏の提案で、White Albumに収録の「Rocky Raccoon」が演奏された。直訳すると、「ロックなアライグマ(タヌキ)」。
これは、初対面のミュージシャン同士の共通言語としてビートルズというものが存在していることが多く、今回の場合も、まずはそこから入ろうという趣旨。バンド経験もあるこしら師とのコラボレーションでは順当な提案にも思えたが、こしら師はビートルズをほとんど知らないらしく、事もあろうに「良明さんの第一印象が(見た目が)タヌキみたいな人だった(笑)」という発言から、「タヌキが出てくる噺が落語には多いんですよ」(こしら師)、「それならビートルズのホワイトアルバムに「Rocky Raccoon」という曲があるんだけれど、それを演奏するからその上で、タヌキの噺をしてよ」(良明氏)、という会話から成立した構成の楽曲が披露された。

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かんたんに言うと、Aメロ、Bメロはこしら師が落語を語り、サビを良明氏が歌うという構成。これが、ギター一本で奏でられる穏やかなアレンジと、こしら師の流れるような口調も合いまって、驚くほどの融合に成功していた。陳腐なたとえになってしまうが、こしら師の噺はある種のポエトリーリーディングの様でいて、ただ、一回一回、噺にきっちりとした展開がついている。
高座の上の座布団に座り、上下を切りつつ(左右を見分けて話をする)語る様は、まるで落語をやっているように見えるが、生演奏と歌の間に語るという制約の中での一席。この制約が、縛り付けるネガティブは制約ではなく、何をやってもOKになってしまうこの類のコラボレーションに一種の緊張感を与える制約としてポジティブに機能し、良明氏の穏やかなプレイと共に、とても温かな雰囲気の一曲(一席)となった。

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次に軽くトークを挟んで、2曲目(2席目)はマウンテンという曲に合わせて、有名な落語のオチを手短にまとめて語るという、オチ集を歌詞としてはめるというトライ。これは、こしら師は高座からおり、ハンドマイクでステージ中央へ。その絵は、まるでロックスターそのものだった。

これも基本は良明氏の演奏にこしら師の語りがのる、ポエトリー風のパフォーマンスではあったが、サビを一緒に歌うという構成で、先の曲に比べより音楽としての側面が強く出ていた。こしら師が一つの小噺をたった数分で次から次へと語り続ける様は、師がエイベックスから高速落語という3分にネタをまとめたCD集を出していることからも非常に板についた趣であり、取ってつけた感はない。そして、その語りを彩る良明氏のギターは様々なフレージングを駆使し、これが単なる企画ものの一曲にならないようにギリギリのところで、音楽性の高さを示していた点には、感服した。

とにかく、落語家さんがハンドマイクで出てくるという図が新鮮すぎるも、その斬新な構図も、こしら師の小さく固まらないキャラクターで一蹴し、掲載している写真を見ていただいても、ライブのショットとしては、全く遜色のないものばかりになった。
それは、会場での印象も変わらず、まったく躊躇せずに間奏などで良明氏のギターのリズムに合わせて体を揺らすこしら師の自然さや、そのノリの確かさは、これが音楽以外の何物でもないことを証明して見せていた瞬間に思う。

お客さんへの手拍子を促すパフォーマンスもごく自然で、ロックミュージシャンを観ている錯覚に陥った。
詳細なリハーサルと、打合せを重ねる時間がなかったというこぼれ話の通り、ところどころは構成があいまいで即興になる部分もあったにはあったが、それが、ライブ感にもつながることになり、そのスリリングさは、ロックバンドのアドリブから得られるカタルシスの様でもあった。

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この2曲、約15分ほどのコラボレーションであったが、互いが互いを信用し、尊重しあい、そして何よりも自身が楽しむんだという姿勢が貫かれたコラボレーションは、観る者に、さわやかな印象を強く残し、この先にはまだ何かがあるんじゃないかという可能性をを十二分に感じさせる結果となった。

中入り休憩後は、立川こしら師の高座を一席。

前半とは打って変わって、純粋な落語会の体裁を整えての一席を披露する予定になっていたにもかかわらず、単に落語を一席とならないのがこしら師の本領発揮といったところ。

なぜか出囃子も何もなしで高座に上がり、まくらをふり始めたこしら師は、そのまま噺に流れ込むことをせず、ここでもこの会のコンセプトであるコラボレーションを試みる。
白井良明さんのライブでお客さんが持参してきたカズーを使って、落語とのコラボレーションをやってみようと提案し、客席に語りかける。お客さん一人を高座(ステージ)に上げ、先ほどは歌に合わせてカズーを吹くという演出だったものを、その場で「これから僕の話す噺に合わせてカズーを吹いてください」とリクエスト。

最初は困惑気味のお客さんも、さすがに噺家さんの喋りを笛を吹いて再現することの難しさを前に、笛をくわえたまま喋るという荒業に出て、場内は爆笑に包まれた。これはお客さんのとっさの機転の利き具合が起こした現象ではあるけれど、やはり、そういうことを思わずやってしまおうとお客さんが思えてしまうほどの自由な空気に場内が包まれていたという事実を、端的に表していた証拠であるともいえる。

それほど、この会は、すでに単なる落語会を超えた、新たなるエンターテイメントの会として、お客さんもその雰囲気を満喫していた。そのお客さんとこしら師とのコラボレーションで出来上がった暖かな空気の中で、師の披露したネタは「豆屋」。
やる気のない豆売りを理不尽な客が値切るというこの噺を、その客をドスの利いた声で、とにかくたちの悪い人物として描く演出は、こしら師のキャラクターにもマッチして、非常に現代的な噺として表現され客席をぐいぐいと引き込み、お客さんの落語へのファーストコンタクトとしては、またとない機会となったに違いない。

師の一席のあとには、再度ステージには白井良明氏が呼び込まれ、2人でその日を総括するようなフリートーク。

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音楽と落語に限らず、他ジャンルのコラボレーションとは、演者同士が迎合することなく、しかし互いのフィールドへの理解や敬意がなければ成立しない。もしくは半端な結果を招くことが往々にして起こり得るが、この日の二人は終始お互いをリスペクトしあい、プロフェッショナルとしてのある種の緊張感を持ち続けながらも、そのぶつかりありを心から楽しんでいたことが改めて実感できる場面となった。

こしら師は高座に座ったままで、白井良明さんは、その一段高い高座に横座りで寄り添うようにしてトークする場面は、この夜の2人の距離感と、充実感を象徴していた盤面として非常に印象的だった。

このコラボレーションのトライは継続していきたいとの発言から二人が意気投合したことは十分に伝わってきたが、その場で口をついて出てきた「とりあえず、フジロックに出たい!」という次の目標に、会場全体が爆笑に包まれながらも、それもありかもと思わせるマジックが感じられた。
とにかく、終始会場を包んでいた暖かな空気と、こしら師と白井良明さんの絶えない笑顔が、この夜の充実度を物語っていた。
この先をまた観てみたいと会場の皆に思わせた素敵な時間だった。

文章、撮影:加藤孝朗

追記:そして、その会場で冗談のごとくに宣言された、フジロックに出たいという夢がいきなりかなってしまいました。
7月26日金曜日の、苗場食堂。多くのミュージシャンの夢、フジロックに、こしら&良明氏が立ち、いったいどんなステージを繰り広げるのか、これは絶対に見逃せない。

そして、フジロックに来られない人の為に、このコラボレーションを見られるチャンスが7月29日に、渋谷の7th Floorというライブハウスで行われる。
ここでは、ムーンライダーズの武川雅寛と白井良明のユニット「ガカンとリョウメイ」に立川こしら師が参加するとう形に。
何はともあれ、新しいモノが生み出される瞬間を見逃す訳にはいかない。


公演情報

ガカンとリョウメイ presents 『凱旋!ガカリョウ・こしらのクールじゃ、PON!』

【日 程】2013年7月29日(月)
【会 場】Shibuya 7th FLOOR
【時 間】開場18:30 / 開演19:30
【料 金】前売¥3,000- / 当日¥3,500- (1Drink別)
【出 演】ガカンとリョウメイ[武川雅寛(ムーンライダーズ)・白井良明(ムーンライダーズ)] / 立川こしら
【お問合せ】Shibuya 7th FLOOR 03-3462-4466