【スペシャルインタビュー】春風亭ぴっかり☆




春風亭ぴっかり☆

5月13日生まれ 東京都出身
本名 高橋由佳 (たかはし・ゆか)
2006年 11月 春風亭小朝に入門
2007年 2月11日 沼津「小朝・正蔵二人会」にて初高座(演目:狸の札)
2007年 6月 前座となる 前座名「ぽっぽ」
2011年 11月 二つ目昇進 「ぴっかり」と改名
2012年 NHK新人演芸大賞決勝進出


昨年、私が企画していた音楽と落語のコラボレーションイベントにも出演していただいた、春風亭ぴっかり☆さん。春風亭小朝師の三番弟子で、現在二つ目に昇進して約1年半ながらも、話題の女性限定落語会「らくこのらくご」や、映画「らくごえいが」への出演など活躍のフィールドを一気に広げています。その勢いのまま、この夏に10日間連続の独演会「ぴっかり☆十番勝負!plus one」を開催。これは持ちネタの中から日替わりで披露する「ひがわり×ぴっかり☆10days」、 この公演のために書き下ろされた新作落語を披露する「新作!ぴっかり☆ネタおろし(作:金津泰輔 )」、古典の大ネタを10日間連続で公演する「じっくり×ぴっかり☆10days」という 3席で構成されており、単なる独演会の枠を超えた魅力的な企画。そして10日間公演を凝縮した内容を持って、初の大阪での独演会も開催。

二つ目の噺家さんが10日間連続の独演会をするということも異例ですが、その企画内容も非常に興味深いものになっています。
持ち前の明るさでとても盛り上がったインタビューとなりましたが、一つ一つの回答には力強さが感じられ、充実感が伝わってきたのが印象的でした。

インタビュー・文章:加藤孝朗


いきなり噺家生活が始まったんです。

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ーー 落語家を志したきっかけを教えてください。

私は、幼稚園の頃からミュージカル女優を目指していたんです。でも突如として落語家になっちゃったんです。

ーー ――いきなり、話が飛躍しすぎてついていけませんが…(笑)。

幼稚園の時にミュージカルを観て、「私はこれをやる」と言い出して。小学2年くらいから宝塚や劇団四季を見に行っていました。宝塚は背が小さすぎて受験できなかったので、ミュージカル女優になろうと専門学校のミュージカル学科に進みました。その後、劇団の研究生になり、そこで落語と出会いました。

ーー それまで落語を聴いていたわけではなく?

きちんと聴いたことはなかったです。実は、入門志願に行く2日前まで友達とロンドンでミュージカルを観ていたんですよ。ミュージカルの勉強の為にとか言って。ただ、ロンドンにうちの師匠のCDとかを持って行って、帰ったら噺家になろうと思っていたんです。その矛盾はなんだって感じですけど。本場のミュージカルを観て、「ああ、よかったね」って言って帰ってきて、「弟子にしてください」って。意味が分からないですよね(笑)。

ーー ロンドンに行かれた友達には何も言ってなかったのですか?

ほとんど誰にも言ってなかったですね。自分の中で勝手に決めてました。一緒にロンドンに行った友達は、「何が起こったの?」みたいな。勉強の為に行ったのに「なんで落語?」って。

ーー 落語が急にミュージカルにまさったということですね。

はい。「これだ!」って思ったこの感じはすごいですよね。劇団も研究生として2年間いて、劇団員のオーディションも受かってましたから。

ーー 具体的な何かがあったんですか?

最初に落語に触れた後、あくまでもお芝居の勉強の一環として聴きに行ってはいました。こういう世界もあるんだなって感覚で。歌舞伎とかも行きました。でも、どんどん意識が落語に向いていったんですよね…。

ーー 「いったんですよね…」というように、確信に満ちた感じではないんですね。

そうなんです。ある種の、「これだ!」という確信はありましたけど、なぜそう思ったのかというのは自分でもわからないんですよね。

ーー そして小朝師匠へ志願に行くと。

最初は断られるとかいうじゃないですか。だから、まず1回断られに行こうと思って調べてみたら、府中で昼夜の公演があったんです。昼夜だったらその間に会えるだろうと思い、昼公演後にいきなり楽屋に行きました。そうしたら師匠はご飯を食べてるということで待たされたんですよ。1時間ぐらいたって、まだかなって思っていたら、「あ、忘れてた、ごめん、ごめん」って、わっとその時の出演者の方々に囲まれまして。「えっ君落語やりたいの?」ってうちの師匠に言われまして、「はい、落語やりたいです!」って言ったら「ぷっ」って笑われて。「この子面白いから、ちょっと話聞くわ」って楽屋の端に行って座らされて。今まで何をしてたのとか聞かれて、で「明日から来て」って言われて。えっ、なにこの状況?みたいな感じでした。翌朝に「君、ぽっぽになったから」って言われて、いきなり噺家生活が始まったんです。人生が変わったというか。

ーー 非常に劇的ですね。

師匠はその前5年くらい弟子をとっていなくて、まわりも「また来たけどとらないだろう」と思っていたらしく(笑)。私が入門してからも5年くらい弟子をとらなかったので、10年以上私以外弟子をとっていないんです。やっとこの前、弟弟子ができました。

ーー 前座時代は「ぽっぽ」。二つ目で「ぴっかり」。名前に意味はあるのですか?

入門志願に行った日が「世界平和記念日」で、平和の象徴としての鳩で「ぽっぽ」。うちの師匠は「ぱぴぷぺぽ」が良いみたいで。Pから始まる言葉で、弾むような、聴いて耳に感触のいい音をつかいたいらしく、「ぽっぽ」にしたということです。「ぴっかり」も昇進した日が「灯台記念日」で、灯台の光で「ぴっかり」。高座を明るく照らしますと。もう、びっくりして、他の案はないですかと聞いたら、どんどんふざけた名前が出てきて。最後には「お願いだからぴっかりにしてください」って土下座したんです。で、師匠がにやり、みたいな感じで。

ーー ちゃんと意味があるのはさすがですね。最近、面白い名前が増えていますよね。

確かにそうですね。ただ、それは前座が多いんです。覚えてもらいやすいということで。だから私も二つ目になったらちゃんとした名前になるのかなと思っていたので、もっとふざけた名前になって驚きました(笑)。

もちろん、こわいですよ。私自身、どこまでやれるかわからないですし。ハードルをかなり上げてしまいました。

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ーー この1年で「らくこのらくご」や「らくごえいが」に出られたり、大きな舞台やメディアへの登場機会が増えています。

刺激になっていますね。前座から二つ目になり、戸惑いながらも、すごく勉強になっています。

ーー 挑戦ではありながらも、手ごたえを感じていますか?

いやいや。いただいたお仕事を一生懸命やるという感じです。

ーー 今、すごく楽しそうに感じられます。

ああ、それは嬉しいですね。今、すごく幸せなんです、本当に。いろいろなお仕事を経験させていただいたので、今の私は、やっぱり前の私とは違っていなければいけないし。

ーー というのを経て、「十番勝負!」というビッグイベントはタイミングもすごくいいですね。どのような位置づけとして捉えていますか。

私自身が落語家としてステップアップしていく為には、どこに基盤をおいて活動をしていくべきかということをすごく考えていたんです。ちょうどそのタイミングで、このお話をいただきました。主催の方が、「毎年少しずつ成長して、大きくしていこう」という長いスパンで考えてくださっていて。じゃあ、この「十番勝負!」を基盤にして、一年の活動のサイクルを作っていこうと思えました。

ーー 10日間連続で3席という、このタフさ加減はどう思いましたか?

10日間でというのは主催者さんにいただいた話なのですが、内容に関しては師匠と私の意向をかなり反映してもらっています。本当は新作も5作を二日ずつとかいろいろ考えていたんですけど、最初に取り組んでみた作品をうちの師匠が非常に気に入って、「これはじっくりやった方がいいんじゃないか」ということでこのようになりました。師匠からはネタに関してもいろいろアドバイスをもらっています。

ーー この企画は小朝師匠も関わられていると言ってもいいのでしょうか?

そうですね。協力という形で。師匠も非常に喜んでいますよ。台本ももちろん見ていますし。あと、会の構成も師匠とじっくりと考えました。主催者の方も私の意向にじっくり耳を傾けてくださるので、非常にいいバランスにできたと思いますし、お客さんには十分に楽しんでいただけると思っています。

ーー 「十番勝負!」の構成ですが、まず、日替わりが10日間で10本。これは今ある持ちネタで、その時に決めるのですか?

はい。そうです。

ーー 新作は2作を5日間ずつ取り組んで、中入り後には古典の大ネタをじっくりと。

はい。何度か来てくださる方もいると思いますので、そこで私の成長を観ていただければと。10日間というのは私にとっては未知の世界ですから。そこでどう変わるか。変わらないかもしれないですけれど。そこも楽しんでいただくというコンセプトもあります。

ーー 日替わりのネタを10日間ということでも結構大変なのに、さらに新作に大ネタと、かなりの挑戦ですね。

もちろん、こわいですよ。私自身、どこまでやれるかわからないですし。ハードルをかなり上げてしまいました。

ーー でもご自身がですよね。

そうなんです。自分が悪いんです(笑)。師匠の意向もありますが。出来るか出来ないかのぎりぎりの線を設定しました。本当に全力で取り組んで、いけるかいけないかというところ。そうでないと挑戦する意味がないと思ったんです。勉強会とか独演会も数多くやらせてもらってはいますが、それを10日間やるだけでは挑戦の意味がないと。バタッと倒れるかもしれないですが、挑戦するにふさわしい内容を設定しました。怖いですけど。

ーー 未知との遭遇ですね。

そうそう。

ーー これをクリアした先はどうするかを既に考えていますか?

それはやってみないとわからないですけれど、「10日間」という単位を基本にして挑戦し続けていきたいという構想は持っています。

ーー 10日間で、ハードルが高くなる?

はい。その時の私が、より楽しんでいただけるものを、常に毎年ぎりぎりのところで設定してチャレンジして、乗り越えていくというイベントにしたいですね。

女流には無理だよねという噺にも挑戦しようと思っています。やり続けていって、私という女流の個性が出る噺に巡り合いたい。

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ーー 最近、古典芸能の型はちゃんと残しつつも、今の時代のエンターテインメントとして落語を成立させようという意識を持たれる方が増えてきている気がします。

そうですね。落語家として、古典はしっかり勉強しなければいけないラインとしてありますけれども。古典に関しては、女流がやる限界も正直あります。現代的なものという意味では、「十番勝負!」で取り組む2つの新作は、自分の個性を探すための挑戦でもあります。ただ、古典や新作に関わらず、「ぴっかりのこの噺だから聴きたい」というものを、生涯かけて見つけられればいいなと思っています。それが一番難しいんですけれど。

ーー 新作にチャレンジされているという意味では、多くの師匠方は名作をお持ちですよね。

それは古典でも構わないのですが、そういうものを見つけたいです。

ーー 新作はどんな感じになりそうですか?

作家さんと一緒にがんばって作っています。実在の女性を題材にした地噺(じばなし:セリフでなく地の文で語っていく噺)を考えているんですが、うちの師匠も面白がってくれていまして。それをどこまで私ができるかってことですが。うちの師匠が「越路吹雪物語」という地噺をやっていますが、そのような地噺をする女流がいないんです。それも現代的な地噺というものをやっている方がいない。前例もないのですが。現代的な地噺に挑戦しようと思っています。

ーー 東京での10日間の後に、初の大阪での独演会もあります。

師匠のお伴でも神戸に行ったくらいで、大阪は行ったことがないんです。初めて行くところなので、刺される覚悟で(笑)。丸腰で行く感じですが、とにかく私のスタンスを崩さずにできたらと思っています。

ーー 大阪公演は十番勝負後の、いわばBest of ぴっかりという内容ですよね。

はい。お客さんに書いていただくアンケートなどを参考にして、東京の10日間の集大成を持っていきます。傷だらけになるかもしれないけれど、戦いに行きます。楽しみですよ。

ーー 会場のトリイホールは、有名な「はりはり鍋」のお店のビルですよ。

そうなんですね!美味しい鍋が食べられるといいです。失敗したら泣きながら食べることになりますからね。でも、その土地の食べ物って重要ですよね。うちの師匠がよく「この楽屋、あの食べ物とってくれる所だよね」とか言っているのをききます(笑)。

ーー この企画をやり遂げた時には、どんな景色が待っているでしょう?

どんなものが見えるのか楽しみですね。何も見えないかもしれないですけど(笑)。なんというか、ぱっと目の前が開けて欲しいですね。何かきっと、一つは成長しているはずと信じて臨みます。

ーー この企画の見どころは?

私がもがいているところ(笑)。とにかくお客さんに楽しんでもらおうと必死にもがく姿を観てもらいたいです。それで何かお客さんが思ってくれたら嬉しいです。

ーー 先ほど言われていた、古典をやるうえでの女性であることの限界ということについてですが、女流であることの利益、不利益にはどのようなものがありますか。

入門のお願いに行ったときに、師匠に「女に落語は無理だからね」って断言されたんです。でも、弟子にしてくれました。面白いですよね。師匠はいまだに女に古典は無理と考えている人です。ずっとそう言われてきて、私もそうだと思ってきています。ただ、女流が増えきて、私が女性だというのは一つの個性ぐらいのもの、背が高いとか、顔がいいお兄ちゃんとか、そういう人間の一つの個性だ、という感じで受け止めようと思っています。

ーー 面白い視点ですね。

だから、女流には無理だよねという噺にも挑戦しようと思っています。廓噺(くるわばなし)とか、「湯屋番」とか女の人を見て喜ぶ男の姿を。挑戦して、無理だったらそれでいいんです。やり続けていって、私という女流の個性が出る噺に巡り合いたい。メリットばかりが先行して伝わりがちですが、やっぱりデメリットも沢山あって。女流は苦手という人もいますし、女性に落語は無理だと思っている人の方が多いですし、それは私も感覚として体験しています。10得するけれど20損するというようなところもあるので、それを10得するけれど10損する、プラスマイナスゼロのバランスでやっていけたらと思っています。

ーー プラスマイナスゼロというところが、最終的に目指す場所なのかもしれませんね。

女流で得している部分としては、やっぱり覚えてもらいやすいとか。そういうところもありつつ、マイナス面を常に抱えつつ、私というものを確立して、皆さんに楽しんでいただくことが目標です。

ーー それが確立されたあかつきには、Pから始まりながらもっとかっこいい名前を。

そうそう。えっ、Pから始まるんだ、やっぱり(笑)。それもどうかと思うんですけどね(笑)。



春風亭ぴっかり☆十番勝負!plus one

「十番勝負!:東京公演」

【日 程】 2013年8月9日(金)~8月18日(日)
(月~金 19:00開演/土 17:30開演/日 12:00開演 (開場は開演の30分前) )
【会 場】 浅草 ことぶ季亭 03-3847-5547 http://asakusakotobukitei.jp
【料 金】 自由席 2,500円(税込) (開演30分前より整理番号順にご入場いただきます。 日本間に座椅子、座布団のお席となります。)

「プラスワン:大阪公演」

【日 程】 2013年8月31日(土) 18:00開場 18:30開演
【会 場】 TORII HALL(トリイホール) ☎06-6211-2506 http://www.toriihall.com
【料 金】 全席自由 前売:2,000円 当日:2,200円 (椅子席)

【出 演】 春風亭ぴっかり☆
【新作落語台本】 金津泰輔
【プロデュース】 熊田幸弘
【主 催】「ぴっかり☆十番勝負」製作委員会
【企画・制作】 有限会社熊田
【協 力】 春々堂

チケット

・ぴっかり☆十番勝負!イベント特設ウェブサイト http://yukihiroxx.wix.com/pikkari
・ぴあ 0570-02-9999(Pコード 東京:428-344、大阪:428-346) http://pia.jp/t
・イープラス http://eplus.jp/
・カンフェティ http://confetti-web.com/ 0120-240-540(平日10時~18時)
・TORII HALL (大阪公演のみ)06-6211-2506
※未就学児のご入場はお断りいたします。
※車いすでご来場のお客様は、事前に問合せ先までお知らせください。