【スペシャルインタビュー】桂福丸




桂福丸

1978年神戸市生まれ。灘中学灘高校卒業後、京都大学法学部に進学。2001年卒業。卒業後は英語落語を学び、アメリカでも公演を行う。2007年2月、4代目桂福団治に入門。「福丸」の名付け親は作家の藤本義一氏である。3月9日に高石アプラホールにて初舞台を踏む。


4月から「寄席クラシックス」という名前の、月替わりのクラシック音楽家と、レギュラー出演の若手上方落語家である桂福丸さんがコラボレーションする落語会が始まります。それもマンスリーで、1年間。会場は、クラシックホールの白寿ホール。

この「寄席クラシックス」は、クラシックと落語のコラボレーションを謳いながらも、それだけではなく、落語とコンサートを休憩なしのノンストップで1時間半やり、終演後に出演者も交えたパーティがセットになっているのが大きな特徴。
主催は前回のインタビューで登場した、日本におけるビートルズの仕掛け人として知られる高嶋弘之さん。ただ、その「寄席クラシックス」の主役でもある落語家・桂福丸さんは、灘高卒、京大卒という高学歴で、高嶋さんにひけをとらぬ異色のキャリアの持ち主。

関西在住で、東京での活動はまだ少ないものの、高嶋さんの仕掛ける会に登場する桂福丸さん。早速お話しを伺いに行きましたが、やはり、タダモノではありませんでした。熟慮しつつ丁寧に話をする姿がとても印象的でしたが、そこには色々な経験からきているであろうある種の強さも感じられました。

取材・文章:加藤孝朗

他の人とは順番が逆なんですよ。まず英語落語を始めて、その後で日本語の落語を始める

ーー まず、避けて通れない質問ですが、灘中学灘高校から京大法学部という高学歴ですが、桂福丸さんの経歴を教えて下さい。

中学進学の時点では、誰でも似たようなものだとは思いますが、まだ自分の意思をちゃんと持っていたとも言い難く、親に勧められて受験したという感じです。「いい学校にいけるならその方がいいか」というくらいで。受からなかったら地元の公立でもまったく構わなかったのですが。ただ、大学に関しては、両親に説得されました。中高の学芸会などで舞台に立つことに非常に興味が沸いてきて、そういう方面に進みたいなと漠然と思うようになっていたんです。

ーー それはお芝居ということですか?

お芝居もそうですし、お笑いもいろいろなことに興味があって。とにかく舞台に立っている感覚が凄くフィットしたというか、舞台のライブ感に「生きている」という実感が強くありました。まだかなり漠然としていましたけれど。だから、高校を出る際に「まだ道を決めるのは早いのでは」と両親に説得されて大学に行きました。

ーー そこがまた、京大の法学部です。

京大の法学部は、結構そこから移動しやすい学部なんです。いきなり理系に行ってしまう人がいたりとか。卒業した人も、様々な仕事についている。道を一つに絞らずに、動きやすいようにとの選択でした。

ーー あらためて福丸さんのプロフィールを拝見すると、「2001年卒業。卒業後は英語落語を学び、アメリカでも公演を行う。2007年に4代目桂福団治師に入門」とさらっと書いてありますが、これはかなり突っ込みどころが満載だと思うのですが(笑)。

卒業から入門までの6年間のことは、話すと一番長くなるんですよ(笑)。それも、英語落語を始めるのも卒業してから3年後ですから。就職活動の時期を迎えた際に、まず正社員になるのはやめようと決めました。舞台に立ちたいという気持ちが強く、なにかその方面には進みたいと決めていました。なので、辞めると分かっていて正社員になるのは会社に失礼だろうと。それでフリーターになりました。

ーー 入門の前に、まず英語落語を始められますよね。

はい。枝雀師匠が通われていた英語教室がありまして、そこに週一回の英語落語クラスがあったんです。そこで英語落語を習い、その後、いろいろな人の繋がりでアメリカ公演を1週間程行いました。ただ、英語落語といっても、それを職業にするというのは難しい。そんなことをしている時に、やっぱり日本人なので当たり前ですが、日本語の表現の奥深さや落語の奥深さに改めて気づき、入門しようと決意しました。

ーー 相当ユニークな経歴ですね。

他の人とは順番が逆なんですよ。まず英語落語を始めて、その後で日本語の落語を始めると。この6年間は、一番舞台を見続けた期間なんです。落語もですが、歌舞伎やお芝居やライブなど、とにかく生の舞台にひたすら触れ続けました。そんなことをしながら居酒屋の店長になりそうになったりとか(笑)。面白話が山ほどあります。本当に濃い時間を過ごしました。

落語って基本は音楽なんです。リズムとメロディーがないとダメなんです。

ーー そもそも落語との出会いは?

小学校が最初ですね。テレビとかですね。ABCテレビで「枝雀寄席」という番組があって、面白いなと思っていました。絵本とかでも特にとんちばなしが好きで、図書館で落語の本を借りてきては、返す前に自分で読んで録音したりしていました。もっと原点を辿ると、小さい頃に自分で話を作って、レゴブロックで遊んでいました。その物語の中に浸るのがすごくナチュラルな感覚に思えて、そこが一番落ち着くんです。だから、よくある、「クラスの人気者で笑いをとるのが好き」というのではなくて、むしろ「話の中に没頭している自分」という感覚が好きだから落語に向かった、という側面が強いですね。

ーー 好きな噺家さんを教えて下さい。

聞く側からやる側になってしまったので、難しいですが。自分の師匠はもちろんとして、三代目桂文我師匠、十代目金原亭馬生師匠、三代目春風亭柳好師匠が好きです。文我師匠、馬生師匠は自然なんですよね。何でしょうね。重くもないし。心地いい。三代目柳好師匠は、明らかに音楽です。落語って基本は音楽なんです。リズムとメロディーがないとダメなんです。その部分では、歌を聴いている感じがします。

ーー 僕も落語は音楽であるという感覚には同感です。さて、入門して3年の修業期間の年季があけて、数年経ちましたが。

修行時代の3年は基本的には自分の師匠のことをいかにちゃんとやるかということに集約されているのですが、年季があけた後は、自分の師匠だけではなく、いろんな方に触れる機会が増えます。いろいろ落語会で多くの先輩方や師匠方のお世話をちゃんとやり続けることや、勉強することが山ほどあるので、まずは目の前のことをきちんとこなすことで精一杯でした。それで2~3年はすぐに経ってしまったので、先のビジョンを考えられるようになったのは本当に最近のことですね。

音楽を聴きに来るお客さんに、どうやって落語に良い印象を持ってもらえるかというのが頑張りどころです。

ーー そんなタイミングで、4月から1年間通しで行われる「寄席クラシックス」の話が来ました。

クラシックは結構好きなので、月に一回クラシックが聴けるなんてラッキーだなと(笑)。そんなのんきなことを言っていたらいけないんだろうけど。非常に運が良いんですよ。理屈じゃないんです。ほとんど運です(笑)。考えて動いているように見えて、実は考えていない。運に任せているところが大きくて。人との出会いとか。運だけは自慢ですね(笑)

ーー その出会いが今回の「よせクラ」の主催の高嶋さん(前回のインタビューに登場。日本でビートルズを成功させた立役者)に繋がる訳ですね。

高嶋さんは、非常に面白い人だなと。面白い人は面白い事をするんです。「面白いからやる」という人は、何でも面白がってくれるんです。非常に感覚的ですけど。演者というのは、舞台に上がるだけで楽しいという人が多いんですよ。だから自分の舞台が保証されていればある程度の楽しさは既にあります。ただ規模に関係なく、会をやって下さる裏方の人は最初は楽しんでやって下さるのですが、続けていくうちに色々な問題に直面したりもするじゃないですか。でも、そんなことは簡単にふっ飛ばしそうやなぁという人ですよね、高嶋さんは(笑)。

ーー 「よせクラ」への抱負を聞かせて下さい。

まず、1年間という連続公演なので、リピートする人が増えてくれればいいなと思っています。7割リピート、3割新規というバランスが一番良い雰囲気になるので、1年かけてそうもっていきたいですね。そうすると演者もいろんな挑戦が出来るようになるし。会自体のファンを増やしていって、最終的には「もう終わってしまうのか」と言ってもらえれば成功だと思っています。ただ、もちろん怖さもあって。毎回クオリティを高めていかなくてはいけないし。音楽を聴きに来るお客さんに、どうやって落語に良い印象を持ってもらえるかというのが頑張りどころです。まわりくどい言い方ですが、手法を変えたりはしませんが、クラシックを主に聴いているお客さんに合わせるつもりではいます。「目の前にいるお客さんに合わさんとどうすんねん」という感じです。また、東京の方に上方落語の良さを発見していただきたいというのも大きな要素です。

ーー 目の前にするであろうお客さんが「どんなお客さんであるのか?」という期待感はありますよね。

期待もありますが、はっきり言って不安もあります。本当に読めないので。高嶋さんからは「爆笑をとってもらわないと」と言われているんです(笑)。爆笑をとることだけが落語ではないし。爆笑と言われても、お客さんによっては「ぎゃー」と笑わない人もいるし、「はぁー」と笑っても満足な人もいる訳で。満足感が大事なのであって、笑い声の音量だけで判断しないでほしいと(笑)。

ーー それは逆をいうと、高嶋さんは、クラシックを聴きにくるお客さんから十分に爆笑を得られる勝算を持っているのかもしれないですね。

感度は絶対にいい方が多いはずです。文化レベルが高いというか、興味・好奇心が強い方が多いと思います。不安もありますが、とても楽しみにしています。



公演情報「寄席クラシックス」

2013年4月から月1回のペースで“新しいコンセプト”のシリーズコンサートが始まります!

その名も、「寄席クラシックス」= 落語とクラシック音楽のコラボレーション
落語家の桂福丸をナビゲーターにむかえて、毎月様々なクラシック音楽のアーティスト達が出演いたします。毎公演、落語と音楽を楽しんで頂いた後は、出演者も交えたパーティーも行います。

「落語」×「クラシック音楽」

これまでにない新スタイルの月一公演がスタートします!!
「落語」と「クラシック音楽」。愛好者以外には、なんとなく敷居が高いと思われがちな二つのジャンル―。「寄席CLASSICS(通称よせクラ)」はそんな固定観念を打ち破り、落語とクラシック音楽を自由に楽しんでもらおうというコンセプトのもと始まる新企画の月一公演です(全12回)。
灘校、京大卒という一風変わった経歴を持つ上方(かみがた=関西)落語界のホープ桂福丸(桂福団治門下)と毎回クラシックの人気アーティスト1組がコラボレーション。

4月12日(金)に行われる第一回公演はレギュラーの桂福丸と、見ても聴いても、美しく楽しい12人のヴァイオリニストが登場。12人のヴァイオリニス トは、クラシックの名曲に加えて、深夜放送でお馴染み「ジェット・ストリーム」の人気曲を披露。メンバーの白澤美佳によるカンツォーネ(=イタリアの大衆 歌曲)も必見です。
福丸の演目は当日来場してのお楽しみ。高座はもちろんのこと、当日演奏されるクラシック音楽にかけてのトークも聞きものです。

公演は19時にスタートしてノンストップのまま20時半に終了。“よせクラ”を新たな社交の場にしてもらおうと、終演後には白寿ホールの屋上庭園とホールロビーを貸し切ってのワインパーティーを企画しています!パーティーには当日の出演者はもちろんこと、次回出演予定のクラシック音楽家も参加予定です。

白寿ホールへ行けば「落語も音楽も聴ける」、終演後は「ドリンク片手にたくさんの人とお喋り」。これまでありそうでなかった新しいスタイルの公演、それが「寄席CLASSICS」です。

会場:白寿ホール(代々木公園駅、代々木八幡駅)
日時:4月12日(金)19:00開演(18:30開場)
チケット:(全席指定・税込)一般券 ¥3,000 学生券 ¥2,000
お問い合わせ:キョードー東京 0570-550-799 http://kyodotokyo.com/yosecla (4月12日の公演は完売間近。)

上半期スケジュール
vol.1 4月12日 (金)19:00 12人のヴァイオリニスト
vol.2 5月31日(金)19:00  アウラ・ヴェーリス(ジョン・レノン クラシックス)
vol.3 6月28日(金)19:00  1966カルテット
vol.4 7月19日(金)19:00  KoN
vol.5 8月22日(木)19:00  白澤美佳
vol.6 9月13日(金)19:00  吉田秀
vol.7 10月10日(木)19:00  松本蘭
vol.8 11月22日 (金)19:00  加羽沢美濃(24のプレリュード)
vol.9 12月19日 (木) 19:00  近藤嘉宏(クリスマス・コンサート)

高島音楽事務所  http://www.t-artists.com/information/detail.asp?id=303