二ツ目ながら10日間連続の独演会を開催すると聞いてお話を伺ってから早2年。
春風亭ぴっかり☆はその間に、半年間のテレビ番組のレギュラーや、女優として一ヶ月の舞台という普通の若手噺家ではなかなか経験できない場に立ち続けてきた。
そしてその合間には2ヶ月ごとに2席のネタおろしの会を行うなど、積極的に攻め続け、成長を続けていた。
それらの得難い経験は、大手芸能事務所である東宝芸能に所属することにつながり、そして、この夏の東名阪+グアムのツアーにつながることになる。
そんな確実にステップを上る彼女に、あらためて今の心境を聞くのが今回のインタビューの趣旨だ。
そこには女流としての限界を口にしながらも、前回より確実に成長した芸人の姿があった。
女流としての限界は、芸人としての人並み以上の覚悟へとつながり、それは、今のハイペースな活動の原動力となっているのだろう。
今いる場所への感謝があふれ、同時に、この先登るべき頂の高さに腹をくくる。
雰囲気はわきあいあいとしながらも、とにかく、言葉の一つ一つに力強さを感じ充実した日々が伝わってくる印象的なインタビューとなった。
取材&文章:加藤孝朗
写真:湯村和哉
デザイン:林香余
協力:加藤尚美
――新聞(6月20日の日刊スポーツ)見ました。記事の大きさにびっくりしました。
まず「デカっ!」と思いました(笑)。
事務所で取材を受けたんですけど、記事になったらお伝えします、くらいの感じだったんですよ。実際、紙面を見て「おおおお!!」と。
あれは、東宝芸能のマネージャー陣もここまで大きいとは、とびっくりしていました。さすがにあんな風に載せてもらえるとは思っていなかったそうです。
――芸能事務所の東宝芸能に入ったということが新聞にも掲載されているのですが、入るきっかけをお伺いします。
まず、昨年にコロッケさんが座長の博多座でのお芝居のお話をいただいて、いろんな人と共演させていただいたんです。その関係で東宝芸能のスタッフの方々ともよく接していて、それで面白い子だねと言っていただいて。山村紅葉さんにかわいがっていただいたりしたご縁で、社長が私の落語会を見に来てくださったりして。
――社長がいらっしゃったんですか。
そうなんですよ。その後面接なんかもして、「ぜひうちで頑張ってください」というお言葉をいただいて。どどどどん、と。ご縁ってありがたいなって。
――「ツイてる」という一言で言ってしまうのはどうかと思いますが、明らかにそういった運が上がってきていますね。
巡りあわせというか…。コロッケさんの公演も、噺家が落語以外のことで一ヵ月もスケジュールを埋めてしまうのはどうかと、いろいろと迷ったんですけど、結果として、あの舞台を踏めて良かったなと思います。
――それがなかったら、つながってないですよね。
そうですね。間違いなく。
――ちなみに、東宝芸能の社長さんが落語会に来られるというのは、事前に知らされていたんですか。
いえ。東宝芸能のどなたかがいらっしゃるということだけでした。社長が落語好きで、今は私の高座を頻繁に見てくれて、いろいろとご意見をくださるんですよ。社長と文通みたいな感じで、あそこはこういう風にした方がいいとか、私はこういうつもりでやっていますとか、そういう風なやりとりをさせていただいたりして、目をかけていただいています。社長直々にって、なかなかないことだと思うので有難いです。
――文通というのは、文(ふみ)ではないですよね。メール?
いえ、文(ふみ)です(笑)。もちろん、会ってお話する時もあるんですよ。あるんですけど、スケジュールが合わない時は、お手紙をくださるんです。「新聞でこんな記事がありました、どうでしょうか」、みたいなことも含めてお手紙をいただきます。
――すごく目をかけていただいていますね。所属アーティストの数で考えたら。
そうですね。「期待しています」みたいなことをいつも言ってくださるので、プレッシャーでもあり、感謝でもあり。
――東宝芸能のウェブサイトを見る限りでは噺家さんでは唯一です。かぶるジャンルの方はいらっしゃらない中で、有名な俳優さん女優さんとある意味戦っていかなくてはならない部分もあると思います。プレッシャーはあると思うのですが、それ以上に楽しみや期待感というものはありますか。
そうですね。今まで芸人の所属がいなかったということで、バラエティとか情報番組とかにパイプがあまり無いんですよね。逆に言うと、私もチャレンジなんですよ。東宝もチャレンジであって、一緒に戦っていくというか。
女優さんの事務所に入ったから女優になりたいんですかとよく聞かれるんですが、そういうつもりは全くなくて、噺家ぴっかり☆が、何かできることを一緒にやっていきたいというスタンス。中で戦うという感覚よりも、外に向けて事務所と一緒に頑張っていきたいなという気持ちですね。エネルギーとしては、外に向いています。
――ある意味、事務所からすると事務所の範囲を広げるとか外に拡大していくための駒のひとつであり、ぴっかり☆さんとしては、自分をそうやって使ってもらうのであれば、それに対して120%努力するという気持ちなんですね。
まさにそうですね。
――事務所に入ったことで、なんらマイナスになることは、今のところ見当たらない?
私からしたら、全くないですね。落語は自由にやらせていただいていますし、そこは尊重してもらっています。むしろ事務所のデメリットの方が絶対あるように思うので、ほんとうに感謝しています。落語は今まで通り、自分の軸としてやって行けるのでマイナスはないです。
――非常に楽しそうですね。
そう感じてもらえるのは、うれしいですね。
――その感じは、新しいものからくる期待感ということでしょうか。
そうですね。何が変わったかというと何も変わっていないんですけど。私は私であって。ですけど、これから未知の世界に行く感じが、私の中では楽しい、という感覚です。
これから、いろんな思いもあるしマイナスもあると思いますし覚悟はしていますけど、今は希望に
満ち溢れているという感じですね。確実な手ごたえがあるわけではないのですが。
――この先試練があろうとも、かかってこい、という気持ちだということですね?すがすがしい感じ。
今まで落語界で考えたことがないような試練がバコーンとくるとは思いますが、それはそれで楽しみかなと。普通に落語をやっていたらできないですから。そういう試練も楽しみですらあります。