スペシャル・インタビュー 講談師・神田松麻呂

「松麻呂じゃなきゃ聞けない」一ー35歳の講談師が日本縦断で講談を届ける理由

講談という古典芸能を、今を生きる人たちにどう届けるか。35歳の講談師 神田松麻呂は、その問いに一つの答えを出そうとしている。今年2年目となる全国講談ツアー「義士伝」——主催は北海道のSTVラジオだ。地方ラジオ局が全国ツアーを主催するという異例の挑戦の裏には、ポッドキャストという新しい聴取環境と、演者の確固たる言念があった。

取材・文章:NAGANO

ツアーの原点

きっかけは昨年、札幌で開いた独演会だった。来場者の多くが「初めて講談を聞く」という人たちだった。これを見たスタッフは、札幌のみならず日本各地の講談を聴いた事がない人達に聴いてもらいたいと強く感じ、昨年12月にツアーを企画した。松麻呂もまた、初めて講談に触れる人にとっての第一印象が極めて重要であると感じ、その責任の重さを噛み締めている。

「何事も第一印象って大事ですよね。私で講談を初めて聴いたお客様がつまらないと感じてしまったら、講談という芸能がつまらないと思われてしまう。だから、絶対に失敗出来ないんです」
——松麻呂の言葉には、古典芸能を背負う者の覚悟が滲む。

古典を現代に翻訳する

松麻呂が語る義士伝は、単なる昔話ではない。師匠から教わった読み物を基本としつつ、自身で注釈や説明を加え、現代の観客が理解しやすいように工夫を凝らす。時代劇に親しんで育った松麻呂自身は物語の解釈に苦労はないが、現代の価値観では理解しづらい部分と観客との間の溝をどう埋めるかに心を砕く。

「読み物をしっかりと稽古をした上で、その時のお客さんの空気感で、どこまで注釈や説明を加えるか調整していく。それがライブの醍醐味であり面白いところだと思うんです。」
——稽古だけでは完結しない、観客との共創こそが講談の現代的な価値なのだ。

「働き盛り」の世代に届ける

松麻呂が特に聴いてもらいたいと考える年齢層は、30代から50代。正に「働き盛り」の世代。社会の一線で活躍している人達にこそ、講談を知ってほしいと語る。歴史上の人物が困難にどう対処したか——それは現代の職場やコミニュティでの問題解決のヒントになり得る。そしてこの世代の方々に届ける事が出来れば、もしかしたら、ご自分のお子さんに講談を見せてくれるかもしれない。

不器用な義士に共感する、芸人の心

松麻呂が今、力を入れている義士伝は「萱野三平重実」「木村岡右衛門」「横川勘平宗利」だ。——いずれも不器用ながらも組織のために尽くす人物たちだ。

「芸人っていうのは集団行動をするのが苦手な人が多いと感じます。そんな人達がいかにして集団に自分を合わせていくか。そして不器用ながら懸命に生きていく。今、読んでいる義士伝の人物から学ぶ事が沢山あります」

松麻呂の言葉からは、芸人としての自身の生き方と義士伝の登場人物を重ね合わせる思索が感じられる。

「独自性」——誰も持たない読み物を集める理由

松麻呂の読み物のレパートリー戦略。その選び方には明確な思いがある。

「師匠の持ちネタは膨大なんです。そんな読み物を師匠がお持ちだったんだ!という事があったりします。そういう珍しい読み物を積極的にお稽古を付けて頂く事が大切だと考えています」

この思いの辿り着く先には「松麻呂じゃなきゃ聞けない」と言われる唯一無二の存在になることを目指している。

「高座はネタ選びが八割と言われます。でも、そのネタ選びというのは、そもそも何のネタをお稽古を付けて頂くか。その段階からスタートしてると思うんです」

——この考えが松麻呂の独自性を支えている。

地方ラジオ局が全国ツアーを主催できる理由

全国ツアーを主催するSTVラジオは北海道が拠点だ。なぜ北海道のラジオ局が講談の公演を福岡や広島で主催するのか。その答えは「ポッドキャスト」にあった。ポッドキャストは全国、または海外からも聴く事が可能だ。
「5年前、10年前だったらちょっと考えられなかった」とスタッフは振り返る。
松麻呂の番組のポッドキャスト配信は、リスナーの7割が北海道外だ。全国に松麻呂のリスナーが居る事で北海道が拠点のSTVラジオによる全国ツアーという挑戦が可能になったのだ。スタッフの狙いは、講談とラジオの相乗効果だ。講談をきっかけとしてラジオにも親しんでもらいたい。そしてこの全国ツアーを通じて、松麻呂の全国的なファンを更に増やしていきたいと語る。

地域ごとに違う観客の熱量

昨年の全国ツアーを振り返る際、松麻呂は地域ごとにお客さんの層や熱量が全く異なる事に興味を覚えたという。
特に福岡での公演が印象に残っているそうだ。
福岡で公演をするのが初めてだった松麻呂。公演時、男性客の割合が多く、開演前から「俺達は松麻呂さんが来るのを、ずっと待ってたんだよ」と言わんばかりの熱気に包まれた。それぞれの地域にそれぞれの顔がある事を知った松麻呂。今年は昨年訪れた地域では、より一歩踏み込んだ公演内容にする構えだ。「赤穂義士伝」をネタ出ししているので、義士伝を2本立てで口演するなど、よりディープな構成を検討している。

「赤穂義士伝という読み物が持つパワーを信じて、そして、その土地のお客様を信じて、真摯に申し上げたいと思っております」

覚悟——「客席に座ってさえ頂ければ…」

インタビューの締めくくりで、松麻呂はプロとしての絶対的な自信と覚悟を示した。

「とにかく客席に座ってさえ頂ければ、あとは私の仕事です。お客様が楽しんで頂けるなら、どんな手も使います。ですから、どうかご来場頂けましたら幸いです。お待ちしております」

古典芸能を現代に届ける——それは単に昔の話を披露することではない。松麻呂は、ネタ選びから高座、そしてツアーの企画に至るまで、すべての選択に明確な意思が込められている「その他大勢ではない」という信念が、35歳の講談師を日本縦断の旅へと駆り立てている。


講談師 神田松麻呂「全国11都市ツアー」

2026年
東京 11月14日(土) 14:00
 江戸東京博物館 小ホール
広島 11月22日(日) 14:30
 コジマホールディングス 西区民文化センター 大広間
福岡 11月23日(月・祝) 14:30
 ぽんプラザホール
仙台 12月5日(土) 11:00/14:00
 魅知国定席 花座
旭川 12月6日(日) 13:30
 旭川市大雪クリスタルホール レセプション室
名古屋 12月12日(土) 13:30/16:30
 円頓寺レピリエ
大阪 12月13日(日) 14:00
 百年長屋
函館 12月18日(金) 19:00
 北海道ハウスタウンプラザ(函館市亀田交流プラザ)講堂
札幌 12月19日(土) 18:30
 札幌文化芸術劇場 クリエイティブスタジオ
帯広 12月20日(日) 13:30
 とかちプラザ レインボーホール

2027年
釧路 1月11日(月・祝) 14:30
 北海道立釧路芸術館 アートホール

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