【鑑賞レポート】2016/12/31 “下北のすけえん 春風亭一之輔ひとり会”@下北沢シアター711


2016年12月31日、下北沢シアター711
下北のすけえん 春風亭一之輔ひとり会

一之輔さんにハマりにハマった2016年を締めくくるにふさわしい会だった。

落語ファンには何をいまさらと言われても仕方がないが、私が春風亭一之輔の存在を知ったのはほんの一年前。眠れぬ夜のyoutubeから。
毒の効いたトークと、ちょっぴりだけの落語の導入部に俄然興味がわいた。
まるっと一席聞いたのも音声のみの「堀之内」。冒頭のおかみさんとの会話の「、なおる?」の「、」であっという間に堕ちてしまった。
なんだその間は!すげー好み!
びっくりした。こんな噺家さんがいたんだ。チケットが取れないくらい大人気じゃないか!え?38才?真打四年目?なにそれ。なんで今まで私の耳に届かなかった?私は今まで何をしてたんだ?

いや、なんにもしてなかったんだから仕方ない。
落語界隈からは遠く離れていた。
私の知っている落語家さんは、ほぼ亡くなってしまっていて
知らないのは一之輔さんばかりではなかった。

その後なんとかチケットを手に入れて、以来一之輔沼にずぶずぶとハマって行くことになる。

大みそかの昼下がり、たいていの人は忙しい。
この時間に下北沢の小劇場でキューキューと肩を寄せ合ってるのは相当な一之輔ファンだ。新参者の私はだいぶ早めに行って様子を見る・・つもりが整理券はとっくのとうに発行されていて大概後ろの番号。
なんだよ、何時から出してたんだろ、整理券。来年のために確認しておくべきだった。
とにかくこの会を毎年楽しみにしている一之輔オタが、幸せな大みそかの幕開きを今か今かと待っている。
そんな中に恐縮して私も混じり、幸せを十分に味わった。

イケメン弟子のきいちさんを前座に、まずは今年を振り返るトークコーナーから。
一之輔さんは自分の会で時々私服で現れて、軽いトークをされる。
春にはスタンダップコメディにも挑戦するらしい。
落語も好きだけど「ちょっと面白い事を言う」のが好きなんだなきっと。
2016年は落語を874席(ハナシ、だ!)語ったらしい。
私の通った数なぞそのうちのほんの少々だ。
一体この方はこれから生涯かけて何席語ってゆくのだろう。
そのうち私は何席聞けるのだろう。
なんだか果てしないような、夢のような気持ちになってくる。

一之輔師匠の一席目は「にらみ返し」

秋の「一之輔三夜」でのネタおろしから年末にかけてよく聞いた。
”コワモテ坊主(でもなんかカワイイ)”一之輔さんの得意技と行ってもいい顔芸が見せ場。
整理番号の割には前方に座れたので、初めて間近でよーーく睨んでいただいた。
ありがたい。海老蔵の睨みよりありがたい感。
本当に睨むお顔は怖いんだけど、実は私の好きなところは次々現れる掛取りの面々。
ビビって帰っちゃう小僧さんだったり、なぜか急に弱気になる武闘派?だったり。
ただ睨まれるだけなのに、どんどん変わっていく人物描写が楽しい。
これからも年末定番の持ちネタになるに違いない。

中入りを挟んで二席目は「笠碁」。
これは私が今年一番多く聞いた噺。
ご自身も一番回数かけた噺とトークタイムで言ってらした。
特に夏ごろ、師匠が欧州ツアーにこのネタを持って行った前後は、本当によく聞かせていただいた。
英語字幕付きゲネプロ、みたいな会にも参加した。
一之輔さんの笠碁の魅力は、やはり意地っ張りなおじいちゃん二人の描写。
とにかく二人がかわいい。
意地の張り合いとふくれっ面とバカなケンカと仲直り。なんてかわいらしい噺なんだろう。二人の人格がそう違うわけではないのに、個性があふれてる。
雨の日にお互いがお互いを気にしながら家でイライラしてるさま、大店の奥に控えて使用人や孫をいじる描写が好き。
少しかび臭い雨の匂いとともに周りをとりまく人々が浮かんでくる。
今回初めてネコのタマとミケが出てきた。お互いの家にいる二匹は兄弟らしい。
何そのオリジナル追加エピソード、萌えるじゃないか。

「あくび指南」も初夏には出てこなかった「デーン!」が夏には定番になってたり、一之輔落語は進化する。
自分が聞いたほんの短い期間でも、だ。
そういう入れ事がいかがなものか、なんていう方々もいらっしゃるとは聞いているけど、だから何だ。今の私にはまったくの無問題。
なんなら二人がケンカ別れしたまま終わったって一之輔落語なら構わない。
でも今回の笠碁も二人は無事に仲直り。
ひゃーってなるその瞬間は本当にニコニコしちゃう。良かった良かった。大団円。
今年を締めくくるにはピッタリのハッピーな一席。

満足して会場を出るとなんと師匠自らのお見送り。
寒いのにお着物のまま長い時間立って一人ひとりとご挨拶してらした。
初体験の自分が言うのも何だけど、「今年も一之輔で年が越せますな」「来年もまた足を運ぶよ」って感じでお客様もみんな笑顔で満足そう。
何回目かわからないけど、例年繰り返されて来たひと時なんでしょう、贅沢だなあ。
それを今年は自分も味わうことが出来て本当に幸せ。
こんな大晦日もありだなあ。

しつこいようだが、自分が感じた一之輔愛を語ってみる。
言い尽くされていることだとは思うが、いろんな表情と世界観を持っているのがいいし、実年齢に似合わぬビジュアルとどんな役者にも負けない魅力的な声と、よくわからない色気も香る。
場面転換とか噺のリズムが自分に合って、いい音楽を聴いてる時みたいに気持ちよくしてくれる。
なにしろとにかく笑わせてくれるのが一番いい。
要するにウマい、エロい、オモシロい!
とにかく気が済むまでと覚悟を決めて時間とお金が許す限り、一年間本当によく通った。聞けば聞くほど次また聞きたいし見たい、一之輔さんは私の欲をかきたてる。
何を何回聞いたとか、そんな野暮なことは言わないが、いや本当は手帳につけてるが、とにかくアホほど通った。そんな幸せな2016年だった。

知らなきゃ知らないで終わってたことが、ちょっとしたきっかけで扉が開く。
人生でたまーにあるけど、そんなにはないこと。
それを体験できただけでも2016年は自分にとって意味ある一年だった。

イケメン二つ目が大人気とか、OLのプチ席亭とか、アニメが注目、とか奇しくも私の一之輔熱が世の中の落語ブーム?とマッチしてしまった。
それらの事にはあまり興味がないけれど、おかげでオモシロそうなことも多い。
テレビや雑誌にも取り上げられるし、現在活躍されている多くの落語家さんにも詳しくなった。
懐かしい昭和(から)の名人たちのお元気な姿も拝見できた。

でも私の落語欲はまだまだ一之輔さん中心に溢れている。
2017年のチケットもすでにだいぶたまって来ているし、大いに楽しんで、新年もまたアホほど通う覚悟である。

TEXT:yanagikana