【スペシャルインタビュー】立川吉笑「立川流であるということが唯一のアイデンティティ。」


だからどうだって話ですけど、仕事なかったら談志師匠の月命日はお墓参りに行ってるんですよ、実は。そういうしおらしい一面もあるんですよ(笑)。

――今、ネタ数ってどれくらいあるんですか?

作ったのは30~35くらいかな。でも頼りになるのは7本くらいですね。あと古典でやれるのは10数本。一応、50は覚えてるけど(注:立川流の二ツ目昇進の基準に古典落語50席を覚えることが条件になっている)、全然もうもうね、もう一回ゼロからになるだろうし。

――これをどんどん増やすっていうと、かなり努力をしないと書けないじゃないですか。年間で書ける本数ってどれくらい?

いやぁ、難しいなぁ。一応月1本から2本のペースでは作っるんですけど、やっぱりなかなか残らないっていうか、惰性で書いて、完成しきらないままやっちゃうんですよ。去年で言うと「ぞおん」ぐらいですよ、ちゃんとモノになったのは。だからこそ、もう、分業制で(笑)。アイディアをもうどんどん投げてくれって。オレはこっちのラインを通してバンとつくる、みたいな(笑)。

――現代アートの村上隆さんなど多くのアーティストも分業制、工房制を敷いています。現代アートで工房制がなじむのかっていう議論もありましたが、落語でいったら新しいですね。作家が別にいる例は昔からありますけど。

噺を作るというのはアイディアがないとダメなんで、だったらそのアイディアに関しては一人で考えるよりかは複数人のほうが絶対に数できるはず。ほんと、アイディアって一人でやってても全然出ないから。

――吉笑さんの落語に対する距離感が面白い。と同時にわからなくなったところもあります。噺家の方と話している感じが薄い。取材をさせていただく中で、「今落語をやれている」ことや、「自分の今の生活」に満足されている方が比較的多いのですが、吉笑さんは、明らかにそうではない。落語に対する距離感や、落語への想いを聞かせてください。

声を大にして言いたいのは、もう、大好きなんです。こう見えても、信じてください。ほんと好きなんですよ!(笑)。もう、ほんとに尊敬してる。特に立川流、立川談志、談笑、大好きですし。でも最近、立川流の新しい前座としゃべってたら、オレよりも(落語が)好きじゃないから、「大丈夫か?」って思ったり、なんかオレがいわゆる落語的な小言を言ったりすることがあるから、「うわ、オレにいわすなよ」、みたいなね(笑)。

――最も落語的でないと見える吉笑さんがですね(笑)。

皆、畏怖の念が基本ないすよ、特に家元に対してそうですけど。まぁ孫弟子だからしょうがないし、亡くなったあとの入門もいるし。だからどうだって話ですけど、オレはね、仕事なかったら談志師匠の月命日はお墓参りに行ってるんですよ、実は。そういうしおらしい一面もあるんですよ(笑)。ちゃんと「ありがとうございました」、みたいなことやってるし。だから、やっぱね、落語好きですよ、オレ、こう見えても。

古典も好きですし。そんなね、先輩方の思ってるような感じじゃなくて、「皆さんと同じく落語好きですよ」っていうのを、もうちょっとうまくアピールしたいですよね。すごく素直に。なんか今は落語を利用しやがってみたいに思われてるなぁと感じることがちょくちょくあるんですけど、そうではないんですよ。

――その示し方はキャリアのタイミングごとに、何を全面に出していくかという順番もありますからね。

落語は今、談笑の言葉を借りると「アウトブレイク化」が進んでると。要は落語家っていう存在自体が危うくなっている。お笑いの人でも落語できるし。自分ももともとそっち側から出発してるからグレーゾーンなんですけど。単純に漫才がそうなっていったじゃないですか。それまでは徒弟制度で弟子入りして始めていたのが、NSCができて、たまたま一期生で天才ダウンタウンが出てきて、もうそれ以降価値観が変わっちゃった。弟子入りしている時点でさむいみたいな感じになったのが、今の状況だと思うんです。落語もいずれそうなりうるし、いつそうなったっておかしくない。

ーー確かにそうですね。

落語ってすごくパッケージとして優れているんです。一人でも時間が持つから。お笑いだったら「30分は長いな」ってなるけれど、落語だとなぜか90分を一人で楽勝にできるっていうのがすごい。道具もいらないし。

そうなったら、お笑いの人も、もうどう考えてもやったほうがいいと思うし。いつ来られてもおかしくないし。もっと言ったら、テレビで顔を売った若手芸人さんが古典をちょっと変えてやったら、お客さんは喜ぶし、地方でもお客さんを集めやすい。知名度があるから。で、それなりに出来ているように見えるから。ほんとは全然出来てないし、落語ファンから見たら全然違うけど。その審美眼すら持たない人が客になっちゃったら勝てなくなる。

もちろん先人が築き上げて来た落語というシステムはとても強固なものだから、そんな簡単にひっくり返ることはないと思うんですけど、でも可能性はあると思う。しかもひっくり返るとしたら一瞬だと思うんです。

たがが外れた瞬間に一気に来るなって気はしていて、その時に自分としては落語側の前線に立っていたい。というか少しは向こう側の景色も見ていた自分だからこそ、決して越えさせないラインを死守できるくらいの影響力を持っていたい。自分が勝負するというよりは、こっちの世界には、オレの後ろには、ヤバい落語家が沢山いますよ〜。っていうのをプレゼンしていきたい。そんな役割意識を意外と持っているんですよ。

――「人が思うより落語好きですよ」っていう言葉以上に、それより何歩も踏み込んで、落語のフィールドを守る為に前線に立つということですよね。

そうそう。勝手に使命感を持ってますね。すでに自分は落語がお笑いと接続するギリギリの地点までやっている気がしているから、その周辺の警備くらいはギルドの一員として勤めたい。でもちょっと怖いのは、万が一自分がこの方向で売れちゃったら、もしかしたら落語を裏切っちゃう恐れがある(一同爆笑)。それはなんかね、自分でも怖い。

――結果的に裏切っちゃう?裏切っちゃう行動にでちゃう?

よっぽどいい仕事があったら、寝返ってもう「アウトブレイクしちゃえ〜」って、向こうの最前線でバンって行くかもしれない(笑)。そういう自分もいるから怖い。でも今は、そんな気持ち全然ないですけどね。

あまり事情がわからない友達から、「キングオブコント出ろよ」とか、「落語家同士で組んで、お笑いのネタ作って、向こうが落語をやるようにこっちがコントとか漫才やっていけよ」とよく言われるんですよ。ただオレは一回やって撤退している身なんで、シビアな感じがわかっているからなかなか難しいですね。でもちょっとずつそういう面も出したくて、今度、イクイプメンを再スタートします。たぶんゲームを作るんですけど。ゲームを作ってそれを僕がプレイするってパッケージ。そんな、ちょっと変なところから笑いを表現していくのはやっていきたいと思ってます。

――笑いが根本、ベースにある。そして、笑いという面白いもののフィールドの中の落語というテリトリーに自分がいて、その前線に立ちながら常にそのフィールドのエッジにいようとしている。エッジにいるから時々境界線を飛び越えて、自分のいるべき場所を検証していこうということですね。

そうそう、まさにそうです。一般的に、落語ってだけで「面白くないもの」って思われることも少なくないから。

――それは、先ほど言われていたツレが落語に興味を持たないってことに象徴されていますよね。

そうそう。まずそこを是正したい。面白い落語は面白いし、面白くないものは面白くない。それはお笑いと一緒だから。落語って時点で壁ができているのを取っ払いたい。

――それはできそうですか?手応えは?

まだまだではありますけど、この5年が勝負だと思います。カルチャー系の分野では、露出が明らかに増えてきてるし、後押しもしてくれる人が増えてきてる自信もあるから、この調子でもうひと踏ん張りしたらちょっとずつ状況は変わるかもしれない。「落語家で面白い人いっぱいいますよ」ってプレゼンできるような立場にいきたい。なんか偉そうだけど。でも、落語は現に面白いじゃないですか。見たらわかる。

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