【スペシャルインタビュー】立川吉笑「立川流であるということが唯一のアイデンティティ。」


ネタは10時間とか考えて何にも思いつかないこととかもザラで。やった分だけ見返りがほしいと思うタイプだから、それってすごく嫌で。たぶん根本がクリエーター気質じゃないんですよ。

――ネタを作るときは本を書いていくタイプですか?

本は書かなくて、一個テーマが見つかったら、プロットっていうか要素ですね、どういうことが起きるかって要素をいっぱい書いてって、それがノート見開き2ページ分になればネタできるなって。そこにはいっぱい素材があるから適当に並び替えて一番スムーズな流れにしてるだけなんです。ネタにする作業って苦手なんですよ。

――展開の選択肢をいっぱい用意するということですか?

これまでは、こういう質問には「面白いことはないかなと、常に考え続けています」とかって言ってたけど、実はそうでもなくて。思いつく才能がないから、そこに何か魅力を感じない、楽しめない。ネタ作りの期間に入ると、それこそ10時間とか考えて何にも思いつかないこととかもザラで。オレ、やった分だけ見返りがほしいと思うタイプだから、それってすごく嫌で。たぶん根本がクリエーター気質じゃないんですよ。そう言えばイクイプメンの時、相方に「もっと時間かけてネタを考えてくれ」って言ったら、「運動と違って、時間かけたからって成果が上がるものじゃない」、というふうに言われた(一同爆笑)。それで学びました。その価値観を。

――筋トレとは違うと(笑)。

そうそう、確かに一瞬のひらめきだから。自分は元々はそういうタイプじゃないけどそれを学んで作る側のこともやってるから、その気持ちがわかる。やっぱしんどいですよね、言葉拾い出す作業とかって見返りないから。で、最近やってるのは、もちろん常にノートを持ち歩いたり携帯にメモしたりとかして言葉はひっぱるけど、実は頼りにしている友達が二人いて、彼らと電話して、ちょっと最初の一回りエンジンまわしてもらうことが多い。全部作ってもらうことは全くなくて、それはオレも嫌だから。喋っていて「今、こんな言葉持ってるんだけど」ってブレストですよね。ブレストは得意なんで。でパァパァしゃべってるうちに、いくつかいいのが出てきたらそれをメモって電話切って、そこからまとめるというのが実は自分の作り方ですね。だからこもって一人でっていうのはあんまりない。

――それって、バンドの曲作りとおんなじですね。こんなリフが、こんなコード進行があるんだけど、どう?みたいな。

そうかもしれないですね。もとは自分が才能あると思われたいから、全部自分が一人でやっているって言いたいけど、最近そう執着もしてない。去年くらいから自分とその周りを「立川吉笑GROUP」っていうグループにしようと思ってて、それって要は「ブレーンがほしい」って公言していて、一緒にブレストしてネタをつくる。ブレストした結果、ネタをやるのは自分だし最終決定権は自分にあるけど、そういうの話すのだけでも面白いじゃないですか。って感じのことやりたいですね。

――そういう意味での「立川吉笑GROUP」なんですね。概念が非常にわかりにくくて、意味を掴みかねていました。

そうです。それを元々やりたくて。気持ちよく出来る形はないかなって思ったらグループにして、それ以外の役割も募集すると。一個は言ってしまえば後援会。後援会って言うとちょっと媚びてる感じがして好きじゃないから、真新しい言葉にしたくて。もう一個はお客さんをオーディションしたい。それはまぁ遊びの延長ですけど。

--「立川吉笑GROUP」は、要はイクイプメンをもう一度やろうという発想ですね。

そうそう、元々はそうなんです。イクイプメンの頃の相方にも当然参加してもらうつもりです。彼は今はアニメクリエーターみたいな感じになってるんです。もちろん仕事として成立していて、それがちょうどいい。一方で僕も落語家として何とか自立できつつあるから、たぶんもう一回一緒にやるとしても、当時より足腰が安定しているだろうなぁと。お互いの本業は別にあって、ただ面白いモノを作るためだけに協力する、というのは理想的な関係でもあります。その上、縁のある人ともっとつながりたいなって、最近特に思いますね。

わりと贈与をしたくなってきていて、そんな歳じゃないですけど、自分が持ってるものはちゃんとみんなに提供して、逆に向こうに助けられているから提供もされたいし、なんか、ヒッピーっていうか(笑)シェア精神で(笑)。

――偶然を積極的に探すとか、シェアしていくってことは・・・

うさんくさいですね(一同爆笑)。自分は幸運にも落語家として居場所が見つかりつつある。一方で、電話でネタの相談させてもらってる友達は、面白いんですよ。面白いし、間違いなく何かしらの才能はあるんですけど、でも現状なんにもなってなくて。30歳でまだバイトして夢追いかけていたり、バイトも辞めて実家帰ってというヤツもいるし、もう、なんかダメなんすよ。ダメというか、それはもう、もったいない。もっと適材適所で。力は絶対あるんだから。活かせる場所があってしかるべきだから。それを自分が提供できるのであれば、したい。本当はお金があって自分がブレーンとして雇えたら一番幸せなんですけど。

――その二人はグループのメンバー?

一応メンバーですね。

――主要メンバー?

うん、まぁ、そうですね。「友達」っていう役割ですよ、友達(笑)。いつも電話で相談できて助かるという。

グループでやりたいのはとにかくそれぞれに得意ジャンルがあるんだったら皆が持ち寄って、せっかくだから協力しようってこと。で、嫌になったらいなくなってもらってもいいし、そこは自由で。オレは今お金出すのは得意じゃないからだめだけど、得意になったら出してあげられるし、出してあげたいとも思うし。ただ、これはオレが得するケース。オレの看板でやってるから、真っ先に得するのはオレだけ(笑)それバレたらきついですけどね(笑)。それはバレないように。

――西洋絵画の工房制に非常に近いですね。

あぁ、そう捉えられたらいいですね。要はもっと横のつながりほしくて。いまそんなの全然ないし。自分の場所も悪いんでしょうけど。もっと才能ある人とのつながりが欲しいんですよ。

――そういうコミュニティーが成立しづらかったのがここ10年という気がします。

特にそうですね。2000年代はそうですね。

1 2 3 4 5 6 7 8 9