【スペシャルインタビュー】春風亭ぴっかり☆ 「高座は、私が生きている存在の証明」


――すごくいい意味で型破りな方です。だからこそ成し得たこともあるし、その成し得てきたことが、ひとつひとつ物議をかもしたりしたこともあったと思います。ただ、結果的に、芸術選奨文部科学大臣賞まで受けられて、トータルで見たら評価されたんだっていう、オールOKなところに実はあるじゃないですか。そう思った時に、僕は、小朝師匠の武道館ワンマンはやっぱりOKだったんだって考えると、また誰かやってほしいなって思っちゃうんですよ。それをやるには、そのお弟子さんの中から(笑)。

そうですか、そうですね(笑)。でも、いま落語を見ているかたたちは知らないかもしれないですね、武道館のことは。そんなことしたんだって感じかもしれないですね。

――今、武道館ワンマンっていうインパクトはすごいと思うんですよ。最近、ZEPPでやったりとか、赤坂Blitzでやるとか、そんな、落語やるところじゃないよっていうところでいろいろな会が開催されています。で、あれこれ言われるじゃないですか。でも、……武道館ですからね。

まず、後ろの席からは見えないですからね(笑)。もう、所作とか言っている場合じゃないよって。本当にそれはそうなんですよ。でも、師匠はわかってやってますからね。

――今いろんなトライをしている人が増えて、新たな時代に入った感じもしています。僕も多少は焚き付けているという認識はありますが、武道館で落語会をやっていた時代と比べると大したことないですよね。

確かにそうですね。本当にそうかもしれないですね。武道館ぶっつけられないですよね。あと、いきなり銀座の街全体で落語会やるとか。

――大銀座落語祭ですね。あれは一年目が始まった時に、周りに「落語版フジロックが始まったぜ」って言ってまわっていたんですよ。嬉しすぎて。

(爆笑)

――そういうトライっていうものが、お弟子さんであるぴっかり☆さんには、義務付けられているわけじゃないにせよ、やっぱりそういう背中を見てきていて、そういうところに多少なりとも影響受けて、シンパシィを感じているからこそ入門されたであろうと。且つ、今事務所がついて、可能性があるところがあって、何かやっぱり期待してしまうというのは正直ありますね。そういうところで、今すぐではないにせよ、もっと自由が利く、もっと自分で責任がとれる真打になった暁には、やっぱり何かトライするという意識は持たれていますか。

ありますね。明確なものはないですよ。でもやっぱりそれはあります。

――それはすごいこと?面白いこと?

うちの師匠はびっくりすることを言い出しますから。「こんなことを君が真打になったらやらせようかと思うけど、どう思う?」って軽く言ったりするので、そういう大きなイベントに負けない芸人の体っていうか、そういうものを本当に作っておかないと、ただポシャるので。つぶされて終わるので。そういうのも私の前向きになっている力の要素なので、うちの師匠はすごいなって思いますね。
でもそれって、子どもみたいにただやりたいことを言っているだけでもあるんですけど、そこもまたすごいですよね。だって面白いじゃんって。うちの師匠って誤解されやすいんですけど、ホントに面白いことをただ追及している人なんです。そういうエネルギーは見習いたいですよね。

真打を見据えたネタとか、もうそこ考えているの?って言うぐらい先を考えているので、びっくりしますけど。でも、これくらいから考えていくことなのかもしれないなって思って。
私は今、無我夢中になって目の前のことしかやってないですけど、師匠からたまに、ぽーんとすごく先のことを言われると、あっそうかって、遠くを見る機会になるというか。そういうのをポコポコ投げてくれるんですよね。

――俯瞰で、非常に長いタイムラインで見てくれているのは、心強いですね。

本当そうですね。10日間の時も、やった後に「どうだった?」って言われて、「力のなさを感じました」って言ったら、「でしょ?君には無理だから、まだ」って言われて。あ、無理とわかっていて、それでもやらせてくれたんだ、って思いましたし。

――すごい話ですね。終わった時に無理だからって。

「無理だったでしょ」って言われて、「はい」って。「じゃぁ勉強会始めよう」って。NHK新人演芸大賞に出た時も、「まず記念に受けなさい。今の君には賞なんて絶対とれないから」って。若手ってまわりが賞とかとっていたら、いろいろ考えちゃうんですけど、そういうぶっ飛んだところから見てくれる存在がいるってことは、すごいうれしいですよね。

――賞をとれなくても経験を積むことが財産なのだろうと、そういうことなのでしょうね。

とれたらとった方がいいんだけど、そんなことは気にしない、と言われて。コンテストのようなものはこのNHK新人演芸大賞しか受けたことがなくて。その時、決勝まで行ったんですが、「決勝行っちゃいました」って師匠に言った時も、笑ってましたよ。「絶対とれない、200%、君とれないから、とにかく暴れてきなさい」って。

――(笑)

最初から無理だって言わないでくださいよって(笑)。緊張してわーっとなってても、君をアピールする場所だから、賞をとることは考えずに、その時々の課題をきっちりこなしなさいと、そう言われました。

――気持ちが楽になりますよね。

そうなんですよ。師匠が賞をとらなくていい、とれないからって。だから本当にとれなくて、でも暴れてきて自分のアピールはできたかなと思うので、だから全く悔いはないですね。

――決勝に、賞をとる気のないファイナリストがいるという(笑)。すごい話ですよね。

聞きようによっては、ナメてますけど、本当にそういう感じでしたね。決勝が終わって、「ね、だめだったでしょ」って。ただ、「暴れてきたか」って聞かれて、「はい、暴れました」って。「反対俥」をやったんですが、とにかくちびっこのもじゃもじゃ頭の女が首を振って、インパクトだけは残せたかなって、そんな感じでしたね。

――師匠との関係性が非常にうらやましくも感じられるところがありますよね。落語ファンの相当数が感じている落語の魅力のひとつとして、徒弟制度があります。非常に厳しいものだろうし、実際その中に入ったら大変なんだろうなっていうのはありはすれど、それに対しての憧れって絶対あるんですよ。人間関係が希薄だったりするこの現代で、マクラで出てくる師匠の話とか、一門のつながりとかを聞いたりすると、落語の歴史の中に守られているし、システムの中に組み込まれている。そこがくすぐられるポイントでもあると思うんですけど、今お話しされたことって、そこをすごく表していると思います。落語に恩返しをしたいと言われている理由が、すごく分かる、腑に落ちるという感じがしますね。

きれいごとじゃなく、ホントに親子っていうか、そういうものなので。師匠に何かを返すって、自分が芸人として何かになる以外は、弟子から返せることって無いんですよね。恰好つけているっぽいんですけど、それしかない、やるしかないんですよね。

――前回伺った時に、女流であるっていうことを、「女性であるということは個性のひとつであると考えればいいんだ」と言われていました。それほど女流ということに気を取られるということではなくっていう風に解釈したんですが、今後女流であれども、「湯屋番」とか、そういう男が大はしゃぎしているような噺もできるようになればいいな、という話を伺っていたところで、先日「湯屋番」を聞かせていただきました。実際、ああやって、男がきゃっきゃ喜んでいる姿を、実際、女性がやってみると、どういう難しさがあるんでしょうか。

そこに対しては全くないですね。噺の難しさとか、テクニック的な難しさはありますけど、女性だから男性だからとかって考える思考がないので、ゼロですね。
「湯屋番」をやるって言ったことに関しては、若旦那の興奮した感じとか、そういうことに関しては難しさはありますけど、そのまんまを、思ったようにやるっていうだけです。

――どの噺をやるにしても、自分が女性であるということが、噺をやるうえで、自分にとってマイナスになることはあまりない?

無いですね。無いというか意識をしていないからですけど。
正直、下ネタとか言った時に、さーっと引くような感じは、「あ、やっぱり女の子がこういうことを言うと受け付けないんだな」っていう体感はしているので、そこは気をつけるようにはしていますけど。お客様が不愉快にならないレベルのところは、やっぱり高座に立つうえでは、いろいろ考えなきゃっていう意識はありますけど、それ以外は無いです。
だから、女の人を買うとか、女性との床入りの噺もやったんですけど、全然、私的には違和感無し。受け取ったかたがどうかはちょっと未知ですけど。

女流として、みなさんの意識の中でとか、声の聞きづらさとか、やっぱりそういうデメリットはあるんだろうなぁとは思います。かと言って、それを正そうとか変えようとか意識は無いので、それ以上の何かで補う、私の良いところを出す、っていう方向にしか意識がいっていないので。
そりゃぁ、みなさんデメリットとかマイナス点は抱えているじゃないですか。そこを見てもしょうがないだろうと。デメリットはあると思います。あるけど、意識していないと、単純にそれだけですね。

――有利に働く、というのは逆にあるんですか。

あります、あります。それはもう、存在として珍しいというのもありますし、おっさんが出てくるよりはね、多少お客様から優しい空気で迎えてもらえたりとか(笑)。それはもう、得だなぁって思うことはいっぱいありますよ。
あとは、例えば大喜利とかで並んだ時も、私は女っていうキャラがひとつあるので、スベっても、「えへっ」ってやってなんとかしてしまうみたいな、そういうところは得だなって思います(笑)。

――非常に気持ち良いくらいの開き直りです。

そうですね。

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