【スペシャルインタビュー】高嶋弘之




高嶋弘之

1934年神戸市生まれ。59年に東京芝浦電気株式会社(現EMIミュージック・ジャパン)に入社。レコード事業部でシャンソン等を手がけた後、64年にビートルズの初代ディレクターとなり、日本でのビートルズの売出しに成功。「抱きしめたい」「ノルウェーの森」「愛こそはすべて」等の邦題を付け、来日公演も実現。その後、カレッジポップスの生みの親として、フォーククルセダーズなどを送り出し、その後のニューミュージックへの流れを作る。
キャニオン・レコード取締役制作部長、ポリグラム・グループ(現:ユニヴァーサル)のチャペル・インターソング社長等を歴任。現在は、クラシックを主に扱う高嶋音楽事務所を設立し、J-クラシックスを開拓。バイオリニスト高嶋ちさ子さんの父親。


スペシャルインタビュー第2弾は、奇しくも初回に引き続き音楽の世界の出身の方。それも超のつく大物。ビートルズの初代ディレクターを務めた高嶋弘之さん。
日々、様々な落語会が開催されている今、コラボレーションを行う会も多い。そんな中、4月から1年間、渋谷にあるクラシックホールのHAKUJU HALLでクラシックと落語のコラボレーション「寄席クラシックス」が開催される。月替わりのクラシックのアーティストに、落語は上方若手の桂福丸さんがレギュラーとして毎月登場。そして終演後は、出演者も含めてのパーティがセットになっている。
そんなビートルズを手掛けた仕掛人の新たな試みを、じっくりお伺いして来ました。スケールの大きな話の連発に戸惑いつつも、この様な人までもが偶然ながらも落語の世界に参入するとは、とても面白い時代になったものだと、改めて思わずにはいられません。
取材・文章:加藤孝朗

クラシックと落語のコラボレーション。どちらも伝統的なもので昔からあるものだけれども、難しいと思われて敬遠されてしまう傾向にある

ーー まず、高嶋さんの経歴を教えて下さい。

僕はね、中学2年の時に自分の道を決めました。もともとは新劇の役者になりたかったのですが、学芸会で芝居をやった際に、その劇中のあるシーンでシューマンのピアノ曲「トロイメライ」をBGMとして流したところ、お客さんが泣いたんです。その時に、「なるほど、芝居も見せ方でこれだけ変わるんだ」と実感して、演出家になろうと思ったんです。その後、神戸高校でも、早稲田大学でも演劇部で、大学の時はフランスの脚本を訳す為にフランス語も勉強しました。

ーー 音楽ではなく演出家志望だったんですね。

そう。ただ、その後、映画の時代だと思い撮影所に入りたかったのですが希望は叶わずに、東芝に入社しました。そこで、レコード事業部に配属されて音楽をやる事になりました。まずシャンソンのディレクターになったのですが、そこで大学時代に勉強したフランス語が役に立ちました。アダモの「雪が降る」は、僕がタイトルをつけたんですよ。

ーー 「雪が降る」も高嶋さんなんですね! でもはやり、高嶋さんと言えば、ビートルズは避けて通れないので、そのお話しをお伺いしたいのですが。

当時の洋楽のディレクターの仕事は、アーティストの曲を聴いて、日本向けに選曲しなおして発売することが主でした。今のように本国で発売されたものをそのまま発売するのではなく、どうやれば日本でヒットするのかを考えて、工夫することが出来たんです。最初にビートルズを聴いた時には、突然変異の様なサウンドでとにかく驚きました。これは新しいものが来たぞ! と思ったので、「I want to hold your hands」を「抱きしめたい」と邦題をつけました。それまでの日本語のタイトルはどうしても「悲しき街角」とかオールディーズっぽい雰囲気のものが多かったのですが、ビートルズには全く新しいイメージが必要だと思ったんです。だから「手をつなぎたい」ではなく、思い切って「抱きしめたい」と。僕はね、タイトルをつけるのが得意なの。

ーー 「恋を抱きしめよう」「愛こそはすべて」「ひとりぼっちのあいつ」などは、最高のタイトルですよね。特に「ノルウェーの森」は日本では定着しているタイトルですが、これは諸説ありますが、実は誤訳ですよね。

そうそう。本当は、「ノルウェーの家具」なんだよね。ただ、僕は外資系の会社の社長までやったわりには英語があまり出来ないので、知った事じゃないと。だって、曲を聴いた時にそうひらめいたんだから。そういうイメージがぱっと広がったんだからしょうがない。

ーー そのひらめきがなかったら村上春樹さんの小説「ノルウェイの森」も生まれなかったですね。

そう。貢献しているんですよ。とにかく名前というのは大事なんです。当時は、イギリスの音楽で、アメリカでヒットしていないものを日本で売るのはとても難しかった。ラジオ局で聴かせても、アメリカで売れていないからと言われてしまって。だから、とにかく作戦を立てつづけました。ファンクラブを学生に作らせたり、試聴会を開催して女の子に「キャー」と叫ばせたりと。名前をつけるのも、作戦を立てるもの、多分、演出家になりたかったということが根底にあるような気がします。

ーー ビートルズの後に、由紀さおりさんの「夜明けのスキャット」や、オリコン史上初のミリオンヒットになったフォーククルセダーズの「帰って来たヨッパライ」など日本の音楽に携わりますが。

これはね、とにかくブライアン・エプスタイン(音楽史に名を残すビートルズのマネージャー)に会ったことが大きい。ビートルズが来日した時に、加山雄三さんと、東芝の専務だった石坂さんと3人で、キャピトル東急まで行ったんです。ビートルズの4人と食事をするということで。その時に、ブライアンに別室に呼ばれてね。もう謁見という雰囲気で、頭さげて、時代劇みたいな「ははー」という感じで(笑)。でも、その後で、無性に腹が立った。なぜオレが頭を下げないといけないのか、と。ビートルズを日本で売って、来日できるようにしたのはオレじゃないかと。本来なら、オレの家にブライアンの方から訪ねて来なくちゃいけないくらいじゃないか、ってね。で、これからは、人が見出した音楽ではなく、自分の見こんだ日本の音楽を、自分の手で売ってやろうと思った。負けないぞ、という気持ちがとても強くなったんです。で、まず、黛ジュンが大ヒットしてレコード大賞。次に由紀さおりが大ヒット。その後、日本の学生達がやっていた音楽を「カレッジ・ポップス」と名付けて売り出していって、という流れです。

ーー なるほど。それがオフコースや松任谷由美さんなどのニューミュージックに繋がるわけですね。で、いきなり話はとんで本題に入りますが、そんな日本の音楽界を創り上げて来た高嶋さんが、4月からクラシック音楽と落語を組み合わせたイベント「寄席クラシックス」をスタートさせます。今までの高嶋さんの活動からすると、これはかなりの唐突に感じますが。

いやいや。そんな事はないですよ。確かに僕は落語は詳しくないし、あまり縁がなかったけれど、例えば高嶋音楽事務所を始めた時に、クラシック音楽はとても敷居が高いと思われていて、それなら分かりやすく提示してあげようと「ギンザ・クラシックス」という企画を始めたんです。銀座という場所と、クラシックといっても長い曲はやらないなどの分かりやすさをコンセプトに掲げて、定着させました。そうしたら、この企画を娘(バイオリニストの高嶋ちさ子さん)がパクって(笑)。うちの娘はトークもいけるから、フジテレビの軽部さんと組んで「ギンザめざましクラシックス」というのを始めて、地方にも進出したんです。地方に行く時は「ギンザ」を取って「めざましクラシックス」と名乗り始めて、それが「めざクラ」の愛称でもう200回くらい開催されて、「2人のトークとクラシックを気軽に楽しめる」コンサートとして完全に定着しています。こうやって分かりにくいと思われているものの敷居を下げて提示するのが得意なんです。その上で、僕は今の時代のキーワードは「コラボレーション」だと思っている。そこで、クラシックと落語のコラボレーション。どちらも伝統的なもので昔からあるものだけれども、難しいと思われて敬遠されてしまう傾向にある。それを、落語を難しいと思っている人には「音楽を聴きに来てください」と言えるし、クラシックは難しいと思っている人には「いやいや、この会で演奏するクラシックは、ビートルズやポップスもやりますよ。」と。

「よせクラ」に行けば、落語も、音楽も楽しめて、またあの人達にも会える


ーー なるほど。なぜ今回は落語なんですか?

僕には灘高校を出た幼馴染がいるんですが、彼から「灘高~京大法学部卒の上方落語家という面白い後輩がいるんだけれど、何かおもしろい企画は出来ないか」と頼まれたんです。それが桂福丸くん。その時に、「コラボレーション」というキーワードからピンとひらめいたの。落語をクラシックホールで、クラシックと一緒に観てもらうというコンセプトが。ただ、それだけでは面白くない。そこでもう一つの僕の今のテーマでもある「人間復活」という要素も加えたんです。今、同じ部屋にいる同僚にまでもメールで用件を済ませてしまうような時代ですよ。でも僕はそれは違うと思っています。メールは便利だけれども、電話の方が圧倒的に情報量が多いし、電話よりもこうやって直接会って話す方がもっと分かりあえる。だからこの「よせクラ」は、人と人が出会う場所にしようと思っています。

ーー それが、企画に打ち出されている「フレンドシップ・パーティ」ですね。

欧米のクラシックコンサートなどは休憩時間にホール内に残っている人なんて一人もいないでしょ? 皆、ロビーに出て、ワインを飲んで楽しそうに話をしている。でも、日本のコンサートの休憩時間は、トイレに行く人が外に出るくらいですよ。欧米の様なスタイルを日本にも定着させられないかとずっと考えていたのですが、それを今回の企画でやってみようと。クラシックや落語では必ず入る休憩を挟まずに、開演から一気に落語とコンサートを1時間半観てもらいます。そして、終演後にテラスで出演者も交えてのパーティをやります。クラシックのアーティストは月替わりなのですが、次回出演のアーティストもパーティに参加してもらう予定にしています。会場のHAKUJU HALLのテラスは夜景が素晴らしい。このテラスでパーティをやって、出演者やお客さん同士が交流をして仲良くなってもらって、「よせクラ」に行けば、落語も、音楽も楽しめて、またあの人達にも会えると思ってもらえるような、そんな会にしようと思っています。それに会場から最寄りの渋谷駅、代々木公園駅、代々木八幡駅までには色々な素敵な飲食店も多くあります。帰りに立ち寄ってさらに楽しんでもらう事まで考えています。

ーー なるほど。落語と音楽だけではなく、パーティも含めた3種のコラボレーションのイベントですね。

そうです。落語とクラシックが楽しめて、お酒もついて3,000円はお得でしょ?これを1年間やろうと思っていて、もう10月までの日程や出演者も決まっています。

ーー 実は僕も昨年にクラシックではないですが、音楽と落語が同時に楽しめるというイベントを開催していました。

そうなんだってね。びっくりしちゃったよ。その面では先輩じゃない、君の方が。でもね、名前は僕の方が良いでしょ。「よせクラシックス」で「よせクラ」。ほら、一発で覚えられちゃう。これが重要なんだよ(笑)



公演情報

 

「寄席クラシックス」「落語」×「クラシック音楽」。これまでにない新スタイルの月一公演がスタートします!!

「落語」と「クラシック音楽」。愛好者以外には、なんとなく敷居が高いと思われがちな二つのジャンル―。
「寄席CLASSICS(通称よせクラ)」はそんな固定観念を打ち破り、落語とクラシック音楽を自由に楽しんでもらおうというコンセプトのもと始まる新企画の月一公演です(全12回)。
灘校、京大卒という一風変わった経歴を持つ上方落語界のホープ桂福丸(桂福団治門下)と毎回クラシックの人気アーティスト1組がコラボレーション。

4月12日(金)に行われる第一回公演はレギュラーの桂福丸と、見ても聴いても、美しく楽しい12人のヴァイオリニストが登場。12人のヴァイオリニス トは、クラシックの名曲に加えて、深夜放送でお馴染み「ジェット・ストリーム」の人気曲を披露。メンバーの白澤美佳によるカンツォーネ(=イタリアの大衆 歌曲)も必見です。
福丸の演目は当日来場してのお楽しみ。高座はもちろんのこと、当日演奏されるクラシック音楽にかけてのトークも聞きものです。

公演は19時にスタートしてノンストップのまま20時半に終了。
“よせクラ”を新たな社交の場にしてもらおうと、終演後には白寿ホールの屋上庭園とホールロビーを貸し切ってのワインパーティーを企画しています! パーティーには当日の出演者はもちろんこと、次回出演予定のクラシック音楽家も参加予定です。
白寿ホールへ行けば「落語も音楽も聴ける」、終演後は「ドリンク片手にたくさんの人とお喋り」。これまでありそうでなかった新しいスタイルの公演、それが「寄席CLASSICS」です。

レギュラー出演:桂福丸
スケジュール
4月12日(金)12人のヴァイオリニスト
5月31日(金)アウラ・ヴェーリス(林そよか、林はるか)
6月28日(金)1966カルテット
7月19日(金)KoN
8月22日(木)白澤美佳
9月13日(金)吉田秀
10月10日(木)松本蘭
開場:18:30 開演:19:00(全公演共通)
チケット 一般:3,000円 学生:2,000円
キョードー東京