【鑑賞レポート】 2015年5月2日、「祝 第十回!特別公演 材木座らくご会」。林家たけ平、立川志の春、三遊亭萬橘


【レポート】 2015年5月2日、「祝 第十回!特別公演 材木座らくご会」 / 光明寺(2015年5月2日)

鎌倉駅東口からバスに乗って10分。「光明寺」で降りると潮風とまぶしい陽光。
山門の影で日射しを避けて視線を上げた先には、青空と背後の山の新緑、本堂の大きな屋根の緑青、その前で遊ぶ男の子達。
鳴き声につられて振り向くと、ふくよかな茶トラの猫がおじさんにブラッシングしてもらい、ご満悦の体でグルグルとのどを鳴らしている。
のどかさにしばらく放心。

近隣にお住まいの方が楽しむ会なので若干アウェイ感があるが、おじゃまします、と本堂へ上がる。
会場は大殿と呼ばれる本堂の中、広々とした畳敷き。
こどもがキャッキャと走り回っているこのお堂、実は国指定の重要文化財だ。
ちょっとうらやましい。私も畳に寝転がりたいが、大人なので我慢。
開演時間が近づくにつれお客さんが続々と集まり、前方に詰めてくださいと声がかかる。
客席後ろには地元ケーブルテレビのカメラが入っている。

記念すべき第10回の出演は、林家たけ平さん、立川志の春さん、三遊亭萬橘師匠の三人&オーパーツ。
毎月開催されている「谷中はなし処」の三人組だ。近場で見られてラッキー。
過去の開催はすべて独演会だったが、今回は特別に寄席形式で色物さんも出演する。
拍手に迎えられて出てきたのは「オーパーツ」。たけ平さん、志の春さん、萬橘師匠3人によるコント集団だ。
たけ平さんがツッコミと進行、萬橘師匠と志の春さんがボケ。
着物ではない高座に慣れない様子だが、幼稚園児のネタ「園児狂騒曲」に、キャハハハと甲高い笑い声があがる。

続いて、来年2016年3月に真打ち昇進が決定した林家たけ平さん。
マクラたっぷりで「秘伝書」。釜なしでごはんを炊く方法やら、ただで電車に乗る方法やら、
ラクできる秘伝があれこれ書かれているという本を買うが、その方法とは。
コントでもそうだったが、最初から最後まで声が大きく、ぐいっとつかまれる。まっすぐまっとう。

立川志の春さん「金明竹」。
店の旦那が外出中に、お使いの人がやってきて伝言を頼まれるが、聞き慣れない関西弁なのでさっぱりわからない。さて旦那になんと伝えるか。
おっとりした与太郎の声に、ぐずっていた子がふと高座に注目する。
大阪出身なので関西弁の言い立てがやわらかくスムーズで、早口になっても無理をしている苦しい感じがなく、素直に入ってくる。

仲入りではお楽しみ抽選会。
ここで主催者のみなさんが旬の野菜のかぶりもので登場するのだが、これがとてもよくできており目を引く。
賞品は、出演者と材木座らくご会の手拭い、協賛しているお店の商品、落語DVDセットなど豪華。

後半は再びオーパーツが登場し、萬橘師匠が三味線のお師匠さんとなる「三味線教室」。はたしてその腕前は。

トリは萬橘師匠「寄合酒」。
みんなでおいしいものを食べながらお酒を飲みたいがお金がない。
それぞれ数の子や鰹節などを持ち寄るが出処があやしく、せっかくのいい素材もとんでもない調理をしてしまう。
調理の仕方が萬橘師匠らしく少しだけ変な方向にズレていて、思わず、ええ?と口に出てしまう。
手拭いを忘れた師匠にお客さんが自ら貸してくれるというハプニングも、ライブらしくておかしみがある。

噺の途中でお寺の鐘が鳴っても、こどもがぐずっても、文句を言って出て行く人はいない。
高座にかじりつくようにして見ている子も、日焼けした短パン姿のおじさんも、年配のご夫婦も、若い女性のグループも、抱っこされた赤ちゃんも、
噺に耳を傾け笑いながら、この場を楽しんでいるようだ。

すっかり日が暮れ、大殿の大きな屋根の上には月が昇っている。
じゃあねと、こどもたちが自転車に乗って帰って行く。
バス停の向かいの小道を進むと、すぐ目の前に広がる砂浜と穏やかな海。
夕焼けの名残と、お席亭が教えてくれたとおり、時折波の中で夜光虫の青い光が瞬いている。

TEXT:鈴木早苗(はじめてらくご