【スペシャルインタビュー】春風亭一之輔「やるからには、徹底的に楽しく」


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春風亭一之輔(しゅんぷうてい いちのすけ)

1978年、千葉県野田市に生まれる。
高校時代に落語に目覚め、日本大学芸術学部で落語研究会に入部。
2001年に春風亭一朝に入門、前座名は「朝左久」。
2004年、二ツ目となり「一之輔」を名のる。
2012年に21人抜きの抜擢で真打昇進。出囃子は「さつまさ」。
2010年に、NHK新人演芸大賞と文化庁芸能祭新人賞を受賞。
2012年と2013年に2年連続して国立演芸場花形演芸大賞の大賞を受賞。
寄席を中心としながらも全国ツアーを敢行するなど、幅広く活動。
またSUNDAY FLICKERS(ラジオ・JFN系全国FM局)や、噺家が闇夜にコソコソ(フジテレビ・2014年9月に終了)、酒とつまみと男と女(BSジャパン)に出演するなど、様々なメディアでも目にする機会が多い、今の落語界を代表する存在として活躍中。



春風亭一之輔にとって2014年はビックイヤーとなった。

雑誌SWITCHで落語特集を組む際に表紙に登場してもらい、カバーストーリーとしてのインタビューで話を聞いたのが1月。SWITCHの落語特集は志ん朝を表紙にした時以来であり、文字通りの大抜擢だ。
ラジオはもとよりTVでも地上波やBSにレギュラーを持ち始め、様々な雑誌の誌面を賑わした。ナオト・インティライミのミュージックビデオに登場し、そして、今、ユニクロ「ヒートテック」のCMに起用され、TVはおろか街中の巨大なビルボードでも師の姿を目にすることとなった。真打昇進の2012年から2013年は落語界でのブレイクの時期とするならば、確実に2014年は大衆に向けたメジャーな世界でのブレイクスルーを成し遂げたと言っていいだろう。

また、高座を収めたCDも相次いで発表された。私もその中の一枚の制作に携わり、最高の高座を収録すべく今夏はかなりの会を追いかけ、師の高座に賭ける思いを間近で感じることの出来る環境に身を置く機会を得た。そこで目にしたのは、あくまでもいつも通り自然体であり、気負いもなく現場を楽しんでいる師の姿だった。

当たり前だが、その姿は私が多く接してきた音楽の世界の人間とは、大きく異なる。複数の人間の集合体であるバンドはもとより、ソロミュージシャンでもマネージャーやプロデューサーといったスタッフとある種のチームとして成立していることがほとんどであり、成功を収めたミュージシャンというのは本人はもちろんのことスタッフも含めてポジティブな空気をまとっていることが多い。

その点、スタッフやマネージャーがいることがほとんどない噺家は、その身一つで成功への道を切り開き、挫折も一人で受け入れるしかない(もちろん、そこにはこの世界の最大の長所である師弟制度が存在はするが)。

たった一人で高座に向い、世間と対峙し、道を切り開く。その計り知れない苦労や恐怖を振切り、世界を引寄せることができるのはほんの一握りの人間なのだろう。
現在の落語界においてその筆頭が一之輔師であり、師が歩む足取りは落語を取り巻く環境を好転させうる予感に満ちている。

しかし相対した一之輔師は相も変わらずマイペースで、それがまた嬉しいのも事実だ。

 

取材・文章・写真:加藤孝朗(噺ハナシ・ドット・ジェーピー)

伝えようと思わないと伝わらないですよね、言葉って。教わった通りに喋っていても、いつまでたってもウケなかったり、響かなかったりする。伝える意思が重要。

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――現在、ネタ数はどれくらいありますか。

180くらいあるかな。一回しかやってない噺もありますけどね。でもまだ少ないですよ。死ぬまでに300くらいにはなってるんじゃないかな。あればいいってもんじゃないですけど。ただね、覚えてもふるいにかけていくので、とりあえずどんどん覚えてそのネタが自分に合うか合わないかを見極めないといけないんです。

――師匠が良くやられる「初天神」が大好きです。子供がどうにも憎らしくて(笑)。どなたに稽古してもらったのでしょう。

これはうちの師匠、一朝です。対面での稽古で、それをテープに録らせてもらって、覚えて、で、聞いてもらうという。

――そこから、独自の色が入っていき自分の形になっていくと。

そうですね。まあ、これはやっていくうちなんですけどね。「初天神」は前座の時に習って、3,4年やってなかったんですよね。で、子供が生まれて2歳とか3歳になってからかな、やり始めたのは。なんかこう、しっくりくるようになった。それで回数をかけてるうちに、その場の流れでつい出た一言とか、アドリブで言ったらウケたものを残していった感じですね。机に向かって「何か新しく変えよう」とかじゃなく。

――本を書くっていうことではないんですね。

最初に習ったものは、そのままノートに起こしますよ。でも、そこから先は頭を掻きながら書いていくよりは、お客さんの前でやっちゃってその場で出てきたものを取捨選択していく。だから多分5年後とかは全然違ってくるかもしれないし、固まるっていうことはあんまりない。

――何か変わるキッカケはあるんですか?もちろん時代もあるだろうけど、そんなに時代がガラッと変わるわけではないときに、何のタイミングでアドリブみたいなものが生まれてくるのか、それがなぜOKになっていくのか、自分の中の整理としてどうなのでしょう?

ノリですね、お客さんの。ノリって、やけに浮かれているとかそういう意味じゃなくて。自分のフィーリングとお客さんがガシっとはまった時に、自分が考えもしないようなことをポッと言ったりするんですよ。

――それはお客さんの気みたいなもので突き動かされる感じ?

そうだと思います。お客さんだけじゃないのかもしれない。その会場の状況、空気とか、その日の体調の良さもあるでしょうし。

――全部さらけ出しちゃうわけじゃないですか、体調も含めて。

そうですよね。それを繕って上がんなきゃいけないんでしょうけど。でも僕はそのまんま。

――そんな感じは受けます(笑)。

ノラない時はハアハアって言いながらね。でもまあ一応噺に入るときはスイッチ入れるようにしますけど。

――もちろんスイッチは入れるにせよ、高座ではすごく自然体でいるように感じられます。

よく言われますよ。無理しない方がお客さんも聞きやすいんじゃないかな。落語口調ってあるじゃないですか。「さあ、落語やりますよ」、みたいな。最初はそれから入らなきゃいけないんでしょうけど、それもだんだん崩れてくものなんじゃないかなって思うんです。崩れるっていうか、自分に合うしゃべり方になっていくというかね。そうならなくちゃいけないような気もするし。自分の言い回しやリズムというものがあった方が、お客さんには伝わると思う。でもなんだろうな・・・。伝えようと思わないと伝わらないですよね、言葉って。教わった通りに流れるように喋っていても、いつまでたってもウケなかったり、響かなかったりする。だから、確固たるというものでもないにせよ、伝える意思が重要な気がする。自分の言葉で喋るというと安直になりますが、でもそういうことじゃないですかね。

――習ったままではなく、そこに自分の言葉が入ってくると、伝わる手ごたえを感じたりするものですか?

いきなりそれをやっちゃダメなんですよ。完全に素人みたいになっちゃうんですよ。落研みたいに。そこに至るまでに、教わったものをやり込んでいく。そして、そのうちに自然に出てくるものの比率を大きくしていくという過程が重要なんですよ。

――なるほど。

そんなこと言っていますが、僕はあまり意識してないですけどね。これが楽なやり方だからっていうだけで。今しているのは、自分に合っている、カラダに合っている、身体的に合っている喋り方なんですよ。

――それが見る側にも、とてもスッと入ってくる理由なのかもしれません。師匠の高座を拝見する際の楽しみとして、くすぐりやギャグを入れるときに、師匠が一瞬ニヤッとする感じを受けることがあります。それがなにか「仕留めてやるぜ」、みたいなニュアンスを感じられることがあって、そこに師匠の高座の自然さを強く感じます。

確かにね。ニヤッとしているかもしれないですね(笑)。楽しくやらないと(笑)。はい。

――その時って十中八九面白いんですよ。

面白いですか?

――はい。場内が爆笑になることは多くない気がしますが。ただ、そのような時に出てくる言葉の質というかチョイスは非常に独自性が高く、中毒性があります。多分思いついた瞬間に口にした、吟味のされていない言葉だからなのかもしれません。

確かに、全員が笑わなくてもいいやっていう事を言いますよね。100人いたら3人くらい腹抱えて笑うような、そんなことをね。基本的に、その一言は自分が一番面白がっていることなんでしょうね(笑)。

――一部の人しか笑わないネタは白酒師匠も多いですよね。

そうですね。後輩が言うのもなんですが、ネタの方向性というかギャグの方向性は、同じような気がします。ひねくれものなんじゃないですか、二人とも(笑)。悪い人ですから。僕よりあちらの方がはるかに悪人ですけどね(笑)。

――年齢的なものもありますが、師匠は他の方と比べてもサブカルの香りがする気がします。落語は伝統芸能であり、継承、伝承の芸であることは確かで、もちろんそこを踏襲し大きくはみ出している訳ではないんですが、師匠は「サブカルチャーの一つとして捉えられる落語」というフィールドに足を踏み出しているように思います。それはご自身がそういう道を通られているからだと思うのですが。

そうでしょうね。中・高・大学の時なんかは通りましたからね。でも、そもそも落語ってサブカルチャーで、メインじゃないですからね、どう考えても。落語自体が古典のサブカルチャーなんじゃないかな(笑)。

――年代的には他にカルチャーはたくさんあったと思います。音楽もあり、映画もあり、しかもマニアックものもいっぱいあるという状況の中で落語を選択する。何がそうさせたのでしょう?

自分のカラダに、身体的に合っているなと直感的に思ったんです。

フェスだったら「立てよ!」って感じじゃない、行ったことないけど。それが寄席ってダラダラ(笑)。それがとても自分の肌にあっている。

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――確か、最初は浅草演芸ホールに行かれたんですよね。

そうそう。寄席のなんかダラダラした雰囲気が非常に合っていたんです。気持ちいいというかね。「なんだ、これは?」って思いましたよ。お客さんが期待してないのがいいんですよ。ものすごく期待してない(笑)。ダラダラしていて。ライブとかだったら、寝てる奴とかありえないでしょ。

――そうですね、みんな気合い入れて行きますね。

フェスとかも「立てよ!」って感じじゃない、行ったことないけど。それが寄席ってダラダラ(笑)。まあ年齢層が高いっていうのもあるんですけど。それがとても自分の肌にあっているんじゃないかって、そう思ったような気がします。まあ、後付ですけどね。あとやってみてそう思いましたね。高校の落研でやってみた時に。

――落研を復興されたんですよね。

部室だけあったんですが、20年くらい部員が誰もいない。で、先生に「やります」って言ったら部室の鍵をくれて。部室には、本とかテープとかが結構あって。それで覚えて、ちょっと真似してやってみたら、なんか自分に合っているなって。スポーツやったり、歌ったりするよりはいいなと思った。やっていて楽しいし。わかんないですよ、他の人が見たら、なんだよって言うかもしれないけど。でも自分としては落語がカラダに合ってる気がしたんですよ。

――高座から感じられる自然な感じは、非常にカラダに合っているという、ストンと芸が腹に入っているということから来るのかもしれないですね。

落語って、スポーツ的な要素もありますからね。落語って多分8割5分くらいは素質だと思いますよ。落語という芸能に対して持って生まれた相性というか、素質はあると思いますよ。音楽は、音痴な人とかリズム感がないとかは、どうあがいてもだめ。それに近いとこがあると思うんですよね。ただ、素質や相性がない人でも、強烈な個性でその人にしか出来ない方法でやりきる人もいますよ。その人にしかできない何かがあるっていうのは、本当にすごいなと思います。特に古典落語に関してはそういうところがあるような気がしますね。

――落語の特殊性でいうと、落語家になるという道筋が他の芸能とは大きく異なる様な気がします。例えば音楽や芝居は、自主的に始めて、オーディションなどに通ったり自主公演を重ねて、第三者に認められてからデビューするという流れが多いと思います。散々ふるいにかけられてから、勝ち抜いた者が初めて音楽家や俳優を名のります。でも、落語はそうではなくまず自分から飛び込むことで、いきなり落語家になってしまう。そして、その世界の中に入ってから、ふるいにかけられる。

そうですね、そういうことになりますね。

――入門さえ許されてしまえば、落語家という噺家という肩書は手に入ると。

そうです。こんなラクになれる商売ないですよ。ラクというか、まあタイミングとちょっとの勇気があればなれちゃいます。

――まずどの師匠に入るかが、落語家になる上で相当に大きなファクターだと思います。その相性によっては辞めてしまうこともありますもんね。

それは、本当に大きいですよ。

――非常に一朝師匠はお優しかったとお伺いしています。

非常にお優しいです(笑)。まあ、放任というかね。前座の時は、礼儀作法とか厳しく言われましたけど。家で掃除とか洗濯は一切させない。

――あ、そうなんですか。

その時間に稽古しなさいと。映画みたりとか芝居をみたりとか、いろんなものに触れる時間に使いなさいと。それはすごく画期的ですよね。まあ、ダラダラはさせないですよ。「今、何覚えてるの?」とか、「誰に稽古いってんだ?」とかはよく言われましたよ。落語のネタはとにかく覚えなさいっていわれましたね。前座の時に覚えられるだけ覚えなさいと。大師匠がね、先代の柳朝師匠がそういう育て方だったらしいです。当時は周りから「とても甘いね」って言われていたらしいんですよ。だからそう言われないように、うちの師匠は一生懸命落語を覚えたし、楽屋の仕事もちゃんとしたと言っていました。

――前座の時にほかの師匠のところにも稽古に行かれたんですか?

行きましたね。よその一門でもあるにはあるんですけど、うちの師匠の場合は自分が頼んでくれるんですよ。「こいつに稽古をつけてやってくれ」って。前座が自分で「お願いします」っていうのはよくないんで、筋はちゃんと通して。「この噺を覚えたいのなら俺があの師匠に頼んであげるよ」って。そういう感じで噺はどんどん覚えていきなさいっていう方針でした。

――ちなみに一朝師匠を選ばれた理由は?

落語が上手くて、聴いていて気持ちがいい。音楽と一緒ですよ。リズムとか、テンポとか。声が耳に心地いいとか。ラジオがきっかけなんですよ。寄席でも見てはいましたが、ラジオの中継をきいて、この人だ!って。

――前座の時でどれくらいのネタ数があったんですか。

40~50くらいですかね。もちろん前座ではできないネタもありますけど。前座の中ではネタ数は多い方です。多ければいいという訳でもないですが、うちの師匠の方針です。「前座のうちは2つか3つぐらいありゃいい」っていう考え方の師匠もいます。「一つの噺をいやになるくらいずっとやる、それが力になるんだ」っていう考え方もあります。どれも一理あると思います。でも、うちの師匠の方針は僕には合っていた。とても恵まれていますよね。幸運です。

――その方針を分かっていて一朝師匠を選ばれた訳ではないですよね。

いやいや。分からないですよ、それは。兄弟子が1人いるんだなっていうくらいで。その時、情報があんまりない頃ですから。今ならネットで調べたりとかはあるかもしれないけど、僕の時はそうじゃなかったので。

――飛び込んでみないとわからないという状況ですもんね。

今だったらこのインタビュー読んで、「一朝師匠はお優しかった」っていう僕の発言で、そうなのかと思うかもしれないけど。ああ、そうか、これを見て来るやつがいるかもしれないんだ。あんまり言わない方がいいですね、内緒にしといたほうが(笑)。でも人が増えない限りは発展しませんからね。減るよりは増えた方がいい。

僕はものすごい運が良いんですよ。だから、何か落とし穴があるんだよ、これから。早死にしたりするんじゃないですか?帳尻合わせがあるでしょ、どこかで。神様は観てると思いますよ。

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――ちょっと話を変えたところからお伺いしたいのですが、結構ラジオ少年だったそうですが、どういう人に影響を受けましたか。

伊集院光さんは好きでしたね。「伊集院光のOh!デカナイト」の頃です。この間仕事でOh!デカの放送作家の方に会えて、ちょっと感激したんですよ(笑)。あとオールナイトニッポンだと電気グルーヴとか大槻ケンヂとか。面白かったですね。

――電気、オーケンっていうのは、なんかちょっとわかるような気がします。ナゴムとかですね(笑)。

そうそう。ナゴムって言って分かる人も、もうあまりいないですからね(笑)。電気グルーヴは考え方というか、ちょっとひねくれたセンスに影響受けていると思います。言葉のチョイスとかもね、面白かったですからね。でも僕は音楽つくったりしようとは思わなかった。中学の時に一番どっぷりはまって、高校の頭くらいまでかな。その後、寄席に行ってからはこっちの道にどっぷり。

――寄席はたまたま行かれたんですか?

そう、たまたまです。で、それでいろいろと落語を聞き出して、そこから談志、志ん朝へいくという感じ。談志師匠はとにかくすごいのは分かるけど、でもちょっと違うなって(笑)。やっぱり、寄席で落語を聴くことが楽しかったんです。軽い噺から始まって、色物さんも沢山いて、権太楼師匠や、さん喬師匠や、うちの師匠も出てね、最後に志ん朝師匠が出てくれば、まあ、そら行きますよね。

――寄席芸人が好きだったんですね。

そう、そう。寄席出たいなあって思いましたよ。

――結構色んな噺家さんにお話を伺っても、落語というより寄席にはまったんだという方は多いですね。特に30代や40代の方に多い気がします。寄席に対する愛情を強く持たれている方が。

なんか、かっこよく見えたんですよ、寄席芸人っていうのが。自分にとって面白い人もいれば、つまんない人もいるっていう。それがいっしょくたに出てくるでしょ。それほど面白くない人は、もうそのまま面白くなくていいよって思える感じもあるし(笑)。ありえないですよ、商業として(笑)。

――わかります。その特殊性が自由なものとして当たり前に存在し、それをそのまま受け入れる客席がある。びっくりするくらい異空間です。

そう、異空間ですよね。

――それに衝撃を受けたのでしょうか?

衝撃っていうほどではないです。何かもわっとしたものに包まれるような。なんかくさいけど嗅いでたいみたいな。これ絶対くさいんだけど、この臭いは癖になるよっていう、そんな感じですかね(笑)。

――その感覚に惹かれるのであれば、お笑いには向かわないですね。

お笑いだったら大川興業でしたね。履歴書を書いたくらい。送ってないけど。なんか血迷ってましたね(笑)。スズナリとかに見に行ってましたよ。

――電気グルーヴでオーケンで大川興業(笑)。その時代のサブカルの王道ですが、そこで寄席に行って、いくらその雰囲気が楽しく感じても、落語で身を立てていくということにはそう簡単には意識は向かわないような気がします。好きであるということと、それをもって自らの身を立てようと思うのは、別じゃないですか。

うん・・・。そうなんですよね。ただ、あんまりそこを考えなかったんですよ。いまだにあんまり向き合ってないですよね(笑)。この後どうするとかあんまり考えないっていうか。あまり「大丈夫か?」って真剣になったことがないんです。僕はものすごい運が良いんですよ、順調ですよね(笑)。だから、何か落とし穴があるんだよ、これから。早死にしたりするんじゃないですか?帳尻合わせがあるでしょ、どこかで。神様は観てると思いますよ。

――運が良いと思われている?

なんか順調に来て、真打にもなって、申し訳ない感じ。こんなにツイている人はいないですよ、はたから見て(笑)。

――そこは、はたから見てるんですね(笑)。それは怖くはないですか?

だから、考えないようにしてますよ、怖いから。何人抜いて真打になったとか言われても、これは皆の責任ですもん(笑)。選んだ人たちの責任です(笑)。でも、そんなこと皆、すぐに忘れると思いますよ。

――なるほど。確かに今までもすごい抜き方をした方もいますもんね。

そうそう。そうかと思うと、「この人そんなに抜かしたの?」っていうような人もいっぱいいるんですよ。「今、こうなのに?」みたいなね。だからどうせ忘れちゃう。でも、ツイています。本当にありがたいですよ。今は、実力以上に評価してもらっていますよ。でも、この先は分からない。

――一之輔師匠のようなスタープレーヤーも登場し、落語というエンターテインメントには非常に可能性を感じます。むしろ、ここにきて新たな魅力に再び気づき始めているような気もします。

それはあるでしょう。これからどんな人が出てくるかわからないしね。まだまだ、いろんなやり方があると思うしね。

――面白いものの見方をする新しい世代も沢山出てきています。あとは、お笑いを志し、一人で出来るものが落語だったという理由で噺家を選んだという方も増えています。そんな様々なスタイルが混在していくであろう今、一之輔師匠のような自然体の方がトップランナーとして存在することが、すごく見ていて気持ちいいんですよ。

なるほどね。でも、たまたまトップっていうか、たまたま持ち上げられているっていうのはありますけどね。

――でも最前線にいることは確かじゃないですか。出演されている会の数や、高座数もかなりのもので息つく暇もないはずなのに、その合間に様々なメディアにも露出が増えていて、今や、そこここで目にする機会が増えています。それはあまりプレッシャーにはなっていないですか。

プレッシャーねえ。うん。なってないんでしょうね、あんまりね。フフフ(笑)。ただ、自分の活動の中心に落語があるというか、戻るところがあるというのは、とても重要ですよ。

名人になってもねぇ。なんかいいことあるんですか、名人になって。ない気がするな、いいことなんか(笑)。

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――これから先のビジョンというか、どこに向おうとしているのでしょうか?

これからどうしようかなぁ(笑)。そもそも自分に期待してないところがあるんですよ。

――結果を出しているのにですか?

結果ねぇ。どうなんですかね、結果出てるのかな。

――落語は息の長い芸ですし、先輩も多くいらっしゃいます。例えば50代には誰々がいて、60代にはあの師匠がいてみたいに、常に上の年代に目標になるべき人がいるじゃないですか。噺家は個人商店だけれど、常に比べる人間が沢山いるということは、常に自分を律していく要因になる様な気がします。

目標っていう感じであんまり見ないんですよね、先輩をね。「はぁ、すごい人がいるなぁ」、「面白いなぁ」って見てます。こういう人になりたいなっていうのは、あんまりないですね。あ、でも、上手くなりたいなって、昨日あたりから思い始めました(一同爆笑)。上手くならないとダメなんだな、やっぱな、もうちょっとな、って思いました。上手い人ってほんとに上手いから。

――ちなみにどの師匠をご覧になって上手いって思ったんですか。

まあ、先輩方はみんな上手いんですけど。でも、誰を見て思ったんだっけ。それも忘れちゃってるんですけどね(爆笑)。あ、雲助師匠とか、扇遊師匠とかはね、本当に上手いなぁって(笑)。あと大阪の笑福亭三喬師匠。上手いなぁって思いますね。上手くて、軽くて、なんかもうね。俺が好きな落語って、こんなのだなぁって。「今、俺って、好きな落語と違うことやってるな」って思ったり。上手くなりたいなって思いましたよ、漠然と。

――漠然と(笑)。

お稽古しなきゃいけないなって思いました(笑)。

――先日仕事でご一緒したジャズピアニストの方は「常に新しいこと、面白いことをやっていくんだったら、結局技術が一番大事だ」って滅茶苦茶練習していました。ジャズやアブストラクトなもの、即興性が入ってくるものだと特にそうです。絵画なら最終的にはデッサンに戻るじゃないですか。結局、再び基礎を研鑽し始めるっていうことが多いですよね。即興をやるには何よりも技術だっていう。

落語も、やっぱり基礎が出来ていないとだめでしょうね。新作をやる人も基礎は大事だからね。ただ、経験を重ねることによって技術が高まってくるというのもあるんですよ。ごまかしごまかし演じ続けた経験から身についたものもあるとは思うんです。

――練習ではなく、本番での経験を積むことで克服したと。

そう。血のにじむような努力を・・・、しないんですよ(爆笑)。血がにじんでないんです、僕の落語っていうのは。それはわかる。

――先ほど言われていたように、自分に非常に合ってたってことですよね。

そうだと思うんですよね。でも、血がにじまなきゃダメなこともあると思うんですよ。それをやることで超えられる何かがある。

――そういうミッションがどこかで出て来るかもしれないと。

うん、おいおいね。ただそのミッションを僕は迂回していくかもしれませんけどね。

――噺家として、すべては自分のさじ加減一つ。

そう。

――やはり自然体ですね、非常に。そして、この先のビジョンも特にはないと。

その通りです(笑)。

――ただ、この先の自分を、ご自身で楽しみにしているんじゃないですか?

楽しみって感じかは分からないですけど、「どうなっているんだろう?」とは思いますね。醒めているといえば醒めているのかもしれない。

――でも完全は醒めていませんよね。

そうですね。まあ、なりゆきに任せる。談志師匠みたいだけど(笑)。今調子がいいから仕事は来るだろうし、でもなくなる時はなくなるだろうし、ずっとこのままではないだろうなって。仕事がなくなったら、そのときはもがくんだろうし。

――言葉だったり発言する様子が醒めているとも言えますが、堅実である気もします。それは現状に満足していないということの表れでもある気がします。

基本、満足はしていますよ。でもそれに浸っていることはないですね。

――今置かれている立場を疑っている?

ああ、それはちょっとあるかもしれない。うん。良いとは思ってはいないかな。

――怖さとか。

まあ、ビクビクはしてないけど、まあ、水物だなとは思っていますよ。流行りすたりがある芸能ですから。自分を引いて見ている気はしますね。ただ、これでご飯が食えている状況で、死ぬまで落語を一日一席やっていければいいかなっていう意識はありますね。

――名人になるぜっていう野心はない?

名人になるぜって・・・。名人になってもねぇ(笑)。なんかいいことあるんですか、名人になって(笑)。ない気がするな、いいことなんか(笑)。


落語協会から配信中のインターネット落語会から、「初天神」が期間限定公開中(2014年12月31日まで)。

現在公開中のユニクロのCM、「ヒートテック 落語家篇」


一之輔師の高座がユーストリームで観られます!12月7日(日)14時20分スタート予定。
ユーストリーム配信予定時間
公演日:2014年12月7日(日)
14:20 開始
14:20~15:20 落語中継
15:30~16:00 トークイベント 
※上記は全て予定です。落語会の進行次第で前後する可能性があります。

■落語会出演:隅田川馬石 / 春風亭一之輔

■トークイベント
出演:隅田川馬石 / 春風亭一之輔
MC:やきそばかおる 
ゲスト:髙山璃奈

ユーストリーム配信を見るには、こちらをクリック
Ustream ビクター二八落語チャンネル (http://www.ustream.tv/channel/victor-28rakugo


【公演情報】
ビクター二八落語会CD発売記念 馬石・一之輔 二人会&トークイベント

出演:隅田川馬石 / 春風亭一之輔
場所:原宿VACANT (東京都渋谷区神宮前3-20-13)
時間:昼席 開場12:30/開演13:00
座席:全席自由 ※未就学児のご入場はご遠慮下さい。
価格:前売3,800円(1drink代込)/ 当日4,300円(1drink代込)
※学割あり!~入場時に学生証を提示で¥500円キャッシュバック
発売:2014年10月18日(土)一般発売

プレイガイド
ぴあ(Pコード:440-562)
イープラス
ローソンチケット(Lコード:33941)
お問合せ:原宿VACANT 03-6459-2962

※2席ずつ計4席の公演の後、トークイベントを行います。
※トークイベントと高座の一部をユーストリーム中継いたしますので、予めご了承下さい。

公演、チケットに関する詳細はこちら。


【公演情報】
「噺-HANASHI-」presents
ビクター二八落語会外伝 ~落語アンデパンダン 自由に創造する二ツ目展~

出演者:鈴々舎馬るこ / 春風亭正太郎 / 立川吉笑
公演日:2014年12月7日(日)
開場:18:00 開演:18:30
全席自由 前売:1,000円(別途1ドリンク500円必要) 当日:1,300円(別途1ドリンク500円必要)
オンライン予約:予約フォームはこちら
メール予約:yoyaku@28rakugo.com(お名前、希望枚数を明記の上、メールをお送りください)

公演、チケットに関する詳細はこちら。


ichinosuke
ビクター二八落語会 春風亭一之輔「笠碁」「夏泥」
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アーティスト:春風亭一之輔
価格:¥2,454+税
品番:VICL-64254
発売日:2014年11月19日
※iTunes他にてCD発売と同日配信スタート!


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ビクター二八落語会 隅田川馬石「元犬」「崇徳院」「甲府い」
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アーティスト:隅田川馬石
価格:¥2,454+税
品番:VICL-64253
発売日:2014年11月19日
※iTunes他にてCD発売と同日配信スタート!