【スペシャルインタビュー】三遊亭ぬう生




三遊亭円丈という奇跡のモンスターがいる。新作が今ほど認知されていなかった時代から新作を武器に戦い続けてきた人だ。その門下が今、熱い。大人気の白鳥師をはじめとして、真打昇進が決まった天どんさんなど。
その一門の中でも、入門までに様々な職歴を持ち、その高座に触れていても、これは一筋縄ではいかないなと、ひそかにずっと興味を持っていたのが、本日の主役、ぬう生さん。

決して口数が多いわけでもなく、じっくり考え込みながらも、結局、「うーん、違うなぁ」というのがこのインタビューでは多かったが、私は、その佇まいや言葉の行間からは、揺るぎないものを感じた。

「面白い話を届けたい」。その初期衝動がそのまま息づいている。そんなぬう生さんを是非とも、生で観てもらいたいと、心から思う。

そして、この新作の会《新作カフェ》の主催者の須田さんにもご参加いただいた。ぬう生さんとは、古くからの付き合いでもあり、一回目は是非ぬう生さんにとの気持ちを実現してのスタートとなる。

新作落語の会もいろいろだが、落語になじみのない友達を誘っても大丈夫な、のんびりと筋もののお笑い(=新作落語)を楽しむ、みたいな会もあったらいいなと。といっても”新作落語入門”の会にする気はさらさらなく、新作落語好きの方に、まずは興味をもっていただける、気軽に楽しんでいただける会にしたいという会の趣旨と、新作と古典とを分けて考えている聴き手へのアドバイスにも取れる2人の会話に、私はとても深くうなずいた。

取材・文章:加藤孝朗
写真:上渕仁


僕は、落語には興味ないんですよ。古典とか、伝統芸だとか。それよりも、面白い話を作って、面白い話を聞いてもらうということに興味のすべてがあります

koshira

―― 落語との出会いは?

僕は、子供の時に落語に触れたたとかはないんですよ。会社で働いている時に、街歩きを友達とよくしていて、その時に新宿の末廣亭の前を通って、こんなものもあるんだ! と思って、ふらりと入ったのがきっかけですね。

ーー その時は、面白かったんですか。

面白かったですね。芸協(落語芸術協会)の公演だったのですが、昇太師や、小遊三師等、TVでおなじみの人がいましたし、あとは、色物さんは、コントD51さんとか都家歌六師匠とかが出演されていました。特に柳昇師匠はたまらなかったです。ただのおじいさんなのに、何なんだと。

ーー それでハマったと。

いや、ハマるという感じではなかったかな。でも、好きで観に行ったり、CD聴いたりしてましたよ。あ、で、僕は、落語って、噺家さんが自分で作った面白い話を自分で話しているんだとばかり思っていたんです。勘違いですよね。でも、本気で思っていまして。だから、同じ話を別の人が少し変わった演出てやっているのを初めてみた時は、「あ、この人は、人の話をパクッた悪い人だ」と思ってまして。それぐらい古典という概念がなかったんです。

ーー じゃあ、面白い話ということにはまったんですかね?

まさにそうです。面白い話を作っているんだと思っていたんで、凄いな、と。自分もこういう面白い話を作って、自分でやってみたいなと思いましたね。

ーーそこから入門への流れは?

まあ、いわゆる、「出来るんじゃないか」という誤解と、「やってしまえ」という勢いですよね。今から考えても、何でなのかは、よく分からないです。まず、さっき言った面白い話をしたかったんで、じゃあ、新作かなと。で、新作派で弟子をとっているのはうちの師匠の円丈くらいしかいなかったですよね。その時は。本名と、住んでいる場所は高座で言っていたので、電話帳で住所を調べて(笑)。でも、僕はもう既に仕事をしていたし、用心深い性格なんで、いろいろ考えまして。

ーー たとえば?

落語のムック本を買ったんですよ。そこには白鳥兄さんが「入門時には自作の新作を持って行った」というエピソードが載っていたので、そうかと。で、新作を3本書いていきました。あとは、仕事は辞めないままで入門志願に行きましたね。僕は、用心深いんですよ。無茶はしません。

ーー すんなり弟子にしてもらえたんですか?

まず、当日に、さっき話した新作の落語の他に、履歴書、職務経歴書、菓子折りと、師匠が犬を飼っているのを知っていたので、犬にもお土産をと思ってドッグフードを買って行きました(一同爆笑)。
だから、用心深いんですって。で、自宅を訪ねたら、「これから仕事に行かないといけないから、帰ってくれ」と言われました。たぶん、本当は仕事なんかなくて単なる断る言い訳なんだろうなと思いました。ガッカリして「ああ」と思いながら、持って行ったものを渡したら「じゃ、後日また来てくれ」と言われました。

ーー お土産の中身をさらってですか?

いや、違います。ただ、ホントになんでだろう? なんか、後で来なさいって言ってくれたんですよね。で、後日行ったら、「君の新作読んだよ。よかった」と言ってくれて、で、じゃあ「入門の為のテストをする」と言われて、そこから数本新作を書いたり、三題噺とかもやらされましたね。

ーー 厳しいですね。

そうですね。何日にもわたってのテストでしたから。でも、最初に書いて持って行った話が、自分の腕がなぜが取れてしまって、その腕が持ち主を探すというすごくシュールなもので。途中で、いろいろとあるんですが、その腕がテーブルの脚になってみようとか思ったり、いろんな葛藤があるんですよ。その話を師匠が、「深みがあっていいね」って言ってくれたんです。師匠にとっては、僕は苦労人らしく、その深みが出ていたというか、それを感じ取ってくれたみたいなんですよね。

ーー 入門までには職歴がありますよね。

はい。何種類もの仕事をしてまして。今で言うブラック企業のような感じで。大変でしたよ。29歳で入門なんで遅いんですが、一つ上の兄さんが30超えての入門で、師匠は「年齢が行っている奴は気が利いていい」と言ってくれまして(笑)。

ーー 新作を志したのは、やはり最初の、落語とは、面白い話を作って話すという認識が元ですか?

そうですね。完全に、そうです。面白い話を作りたいんです。極端に言うと、僕は、落語には興味ないんですよ。古典とか、伝統芸だとか。それよりも、面白い話を作って、面白い話を聞いてもらうということに興味のすべてがありますかね。

ーー ぬう生さんにとって落語とはなんでしょうか?

うーん。難しいな。さっきも言ったけど、落語に思い入れはないんですよ。あ、でも、まじめに話をすると、聴いてくれたお客さんが、「明日も頑張ろう」とか、「ぬう生さんがああいっていたことは、確かにそうだな」と後から思い出して元気になってもらったりとか、そいういうことには貢献したいかな。

ーー まさに、エンターテインメントの極意ですね。

そうですかね。でも、なんか、そんな感じでカッコつけるのは嫌なんですよね。まじめな感じで。うーん、どういったらいいんだろう、なんかそこまでカッコいいものじゃないんですよね。

新作を取り巻く環境が大きく変わった気がするんですよ。入門した2001年の頃と比べると。

koshira

ーー 新作の会が始まります。これの見どころ、抱負などをお伺いしたいのですが。

ぬう生 これは、記念すべき一回目ですよね。頑張りますよ(笑)。

ーー 目指すところは?

須 田 新作落語をやれる場を単純に増やしたいというのが目的です。

ぬう生 そうだよね。あんまりないもんね、新作の場が。

ーー なるほど。

須 田 私は、これをきっかけに、続けていくうちに、客席から「そういえば、最近、新作の会、増えたよね」という感じの声が上がってくれたら嬉しいし、理想ですね。そこを目指したいです。

ぬう生 良い事いうね。そうか、そうか。

ーー 私も、新作、古典と分け隔てなく聴きますし、より多くの人に新作を聴いてもらいたいと思いますので、微力ながら応援させていただきます。今後も継続的に取り上げてさせてもらって、盛り上げたいです。

須 田 是非とも、お願いします。

ぬう生 そうですね。でもね。僕ね、新作のお客さんというか、会というか、新作を取り巻く環境が大きく変わった気がするんですよ。入門した2001年の頃と比べると。

ーー それはどのように?

ぬう生 うーん。難しいな。でも、なんか違うんですよね。

須 田 SWA(創作話芸アソシエーション:新作落語などの創作・公演を行う集団)の終焉と共にですかね?

ぬう生 それもちょっと違う気がする。なんだろう、聴く方が変わってきているというか。

ーー 時代なんでしょうか?

ぬう生 それは、確実にありますよね。今、ぎすぎすしてるじゃないですか、世間も人も。つまらないものにはお金を払いたくない、というシビアなお客さんが多くなった気がします。昔の客席には、面白くない落語を聞かされても「まあ、頑張ってね」みたいな寛大な雰囲気を感じられる事が今よりも多かった気がします。でも今は、自分が面白くないと思うと「損をした」という気分になり、自分に損害を与えた事に対して落語家を非難する、そんなお客さんが多いような気がします。自分に損害を与える、自分の価値観に合わないものは、徹底的に許さない時代というか、風潮というか。

ーー なるほど。

ぬう生 ただ、それをどうこうしようというのはなくて(笑)。ただ、とにかく、面白い話を聴いてもらって、楽しんでもらいたいんですよ。それだけですかね。

須 田 そういう、気軽な会にしたいですよね。

ーー 落語は楽しむもんですもんね。

ぬう生 そうですね。僕は落語ファンではないんです。落語みたいな面白い話が好きなだけなんです。

ーー やはり一貫していますよね。

ぬう生 そうですかね。「そうでしょ。一貫してるでしょ!」みたいに得意気に言うのは嫌なんだよね(笑)。まあ、頑張ります。


新作カフェとは

新作落語の会もいろいろありますが、落語になじみのないお友達を誘っても大丈夫な、のんびりと筋もののお笑い(=新作落語)を楽しむ、みたいな会もあったらいいなと。
といっても”新作落語入門”の会にする気はさらさらなく、新作落語好きの方に、まずは興味をもっていただける会にできたらと思っています。
第1弾は、円丈一門からぬう生さんと白鳥さんにご登場いただきます。
マンタ倶楽部として一緒にキャンプに行ったりする、意外と仲良しなお二人です。
あるようでなかった兄弟弟子対談もあります。

新作カフェブログ http://shinsakucafe.blog.fc2.com/

公演情報

『新作カフェVol.1 三遊亭ぬう生独演会(ゲスト:三遊亭白鳥)』

【日 程】7月28日(日)
【会 場】らくごカフェ(千代田区神田神保町2‐3 神田古書センター5階)
【電 話】03‐6268‐9818

【時 間】開場17:30 開演18:00
【料 金】予約1,800円 当日2,000円
【予 約】shinsaku_cafe@yahoo.co.jp

※以降、以下の要領で、継続されていきます。当サイトでも、追いかけていきたいと思っています。

『新作カフェVol.2 林家きく麿・瀧川鯉八 二人会』

【日 程】9月8日(日)
【会 場】らくごカフェ(千代田区神田神保町2‐3 神田古書センター5階)
【電 話】03‐6268‐9818

【時 間】開場17:30 開演18:00
【料 金】予約1,800円 当日2,000円
【予 約】shinsaku_cafe@yahoo.co.jp